サマリー:新たな医療機器の開発・実用化を促進し、社会課題を解決しながら国際的な競争力を上げていくための産業と行政の協業のあり方は、どのようなものか。行政と民間の立場からヘルスケア産業を支援する5人が語り合った。

「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画」(以下、医療機器基本計画)の第2期計画が、2022年5月に閣議決定された。6年ぶりとなる今回の基本計画改定では、プログラム医療機器の実用化促進や医療機器の安定供給といった新たな論点が取り入れられた。

第2期医療機器基本計画の策定に携わった経済産業省医療・福祉機器産業室長の廣瀬大也氏と前 厚生労働省医療機器政策室長(現 文部科学省高等教育局)の堀岡伸彦氏を招き、医療機器産業の振興に向けた政府の方針と具体策を聞くと同時に、医療の質の向上という共通のミッションのために行政と民間がどう歩調を合わせるべきかを、デロイト トーマツ コンサルティングの波江野武氏、立岡徹之氏、植木貴之氏が議論した。

3つの省庁が一丸となって練り上げた第2期医療機器基本計画

植木 お2人が策定に携わった第2期医療機器基本計画の概要と、医療機器産業にとっての意義について、ご説明いただけますか。

堀岡 基本計画のミッションは、有効で安全な医療機器の迅速な実用化などによって、国民が受ける医療の質の向上を目指すことであり、これは2016年の第1期医療機器基本計画と変わりません。

 ただ、第1期医療機器基本計画策定から5年以上が経過し、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)や、デジタル技術を活用した治療用アプリやAI(人工知能)による診断支援といったいわゆるSaMD(Software as a Medical Device、プログラム医療機器)の登場など、医療機器産業を取り巻く環境が大きく変化していることを踏まえ、計画を練り直しました。

 第2期医療機器基本計画では、先ほど述べたミッションに向けて実現すべき未来像(ビジョン)と短期的な目標(ゴール)を定めるとともに、2026年度までを目処に医療機器関係者が取り組むべき事項をまとめています。

堀岡伸彦
Nobuhiko Horioka
文部科学省
高等教育局 医学教育課 企画官/医学博士
(前 厚生労働省 医政局 経済課 医療機器政策室長)

 ビジョンは、「医療機器研究開発の中心地としての我が国の地位の確立」「革新的な医療機器が世界に先駆けて我が国に上市される魅力的な環境の構築」などの3つであり、ゴールとしては、「研究開発から事業化までを牽引できる人材の増加」「ベンチャー企業や異業種からの参入企業の増加」「国際展開に積極的に取り組む日本企業の増加」「早期実用化に向けた薬事承認制度・審査体制の構築」など11項目を定めました。

 第2期医療機器基本計画の本文は30ページほどありますが、厚生労働省、経済産業省、文部科学省が一緒になって一言一句にこだわりながらつくり上げたものです。ゴール達成のために実施すべき施策はどの省が担当するのかを明記しており、どの省のどの課がどういう事業を通じて行うのかもすべて因数分解できるようになっています。そういう意味で、基本計画に書かれていることは、政府が必ずやることと理解していただいていいと思います。

廣瀬 今回、厚労省、文科省と一緒にやれたことで、医療機器産業の現状がどうなっていて、どんな課題を抱えているのか、総合的かつ計画的に実施すべき施策は何かということが整理できました。

廣瀬大也
Hiroya Hirose
経済産業省
商務・サービスグループ 医療・福祉機器産業室長

 また、第1期医療機器基本計画にはなかったSaMDの研究開発促進や医療機器の安定供給といった新たな柱も据えており、中身をかなり充実させることができました。すでに医療機器の開発を行っている企業にとっても、これから参入しようとする企業にとっても、ロードマップを策定したり、事業プランを立てたりするうえで大いに参考にしていただけるものになったのではないかと思います。