思いを知れば行政は動く。気軽に門を叩いてほしい
植木 革新的な医療機器の開発、普及によって医療の質を高めていくというミッションは、医療機器に関わるすべてのステークホルダーが共有できるものです。ただ、政策やルールの形成についての民間企業側の積極的な働きかけや参画という点で、米国が特に活発でそれと比較すると日本はまだ控えめな印象です。ロビー活動を含めて、医療機器業界のルール形成戦略を行政としてどうご覧になっていますか。
廣瀬 ルール形成と産業振興は両輪の関係で、交通ルールがしっかりと形成されているからこそ、自動車が普及し、自動車産業が発展したわけです。その意味でルールと産業振興は、どちらかが行きすぎてはいけないし、緩すぎてもだめで、バランスを取りながら形成していく必要があります。そのためには、さまざまなステークホルダーの視点や要望を取り入れなくてはなりません。
ですから、民間からの積極的な提言とか、働きかけは大いに歓迎しますが、医療機器業界は先ほど波江野さんもおっしゃっていたように、プレーヤーが実に幅広い。それだけにまとまりにくい面があるのか、業界として行政に対して積極的に提言するといった動きは、たしかに弱いかもしれません。
波江野 業界として足並みを揃えようとすると、合意形成の過程でだんだん角が取れて、当たり障りのない提言になってしまうことがあります。そういう提言を受けても、国としての方向性を定めたり、イノベーションを促進したりするうえではあまり参考にならないというジレンマはありませんか。
廣瀬 そうですね。問題提起が鋭くないとそれ以上角を立てようがないですし、先頭ランナーの背中を押して、1年、2年経つとそれに続く企業がどんどん出てきて産業が活性化するというのが行政としての理想形です。その意味では、みんなでまとまらなくてもいいので、鋭い提言をどしどししていただきたいですね。
立岡 企業側は規制とかルールに目を奪われがちですが、先ほどから廣瀬さんと堀岡さんのお話を伺っていると、どんな価値を提供したいのかさえはっきりしていればちゃんと受け止めるから、意見でも相談でも持って来てほしいとおっしゃっているように聞こえます。
堀岡 まさにその通りです。医療の質の向上にどう資するのかというロジックとかデータさえあれば、提言でも相談でもどんどん持ち込んでいただきたい。ルールの理解なんてあまり気にしなくていいんです。それは、行政の側にプロがいて、ちゃんとアドバイスできますから。
植木 最後に、医療機器業界の今後の発展のために民間企業として何を意識すべきか。行政の視点から、メッセージをお願いします。
廣瀬 医療機器は多種多様で、日本人の持つアイデアや勤勉性が活かせる分野です。いろいろな医療機器があるがゆえに多彩な勝負ができるのではないかと思っています。
そういう意味では、今後も革新的な医療機器をまだまだ世に出せると思います。日本でも海外でも、ぜひともチャレンジしていただきたい。政府を挙げて施策や支援ツールを用意し、門を叩いていただけるのをお待ちしています。一緒に頑張りましょう。
堀岡 医療機器、とりわけ治療機器の開発にはリスクを感じておられる企業も多いと思いますが、私たちはこれまで、ベンチャーを含めていろいろな企業の皆さんが、大変な努力の末に素晴らしい結果を出すところをたくさん見てきました。我々には見えない、とてつもない苦労があったはずです。ですから、開発までたどり着いたものを実用化段階で潰すわけにはいかない。そう思って、私たちも政府部内で交渉をし、施策や制度を整備してきました。行政は、皆さんの思いを知れば、ちゃんと動きます。それを信じてリスクがあることにも挑んでいただきたいですし、私たちも支援に動きますからどうか気軽にアクセスしてください。