サマリー:「ヘルシーリビング」の実現を中長期的な重点分野の一つとする富士通。なぜそれを重点分野としたのか、そしてどう実現していこうとしているのか。同社のJapanリージョンCEOに聞く。

健康・医療分野における社会課題を解決するには、産官学に加えて医療機関など幅広いプレーヤーがエコシステムを形成し、イノベーションや新たな価値を共創していく必要があるといわれる。その実現に向けた動きは見られるが、越えるべきハードルは高い。

オープンで標準化されたプラットフォームの構築によって、エコシステム形成をリードしようとしているのが、富士通である。同社のJapanリージョンCEO、堤浩幸氏を交えて、デロイト トーマツ コンサルティングの大川康宏氏と北原雄高氏が、デジタルがもたらすヘルスケアの将来像や患者・生活者を中心とした産業構造変革について議論した。

ヘルスケアの領域は人生のエンド・トゥ・エンドに広がる

大川 最初に堤さんの略歴、特にヘルスケアとの関わりについて教えてください。

 慶應義塾大学理工学部で人工心臓弁の研究に携わったのが、ヘルスケアとの最初の関わりです。流体力学を専攻していたのですが、いまで言う医工連携の走りとして人工心臓弁の研究をしていました。

 卒業後は米スタンフォード大学エグゼクティブプログラムを修了して、日本電気(NEC)に入社し、シリコンバレー駐在や社長秘書などを経験した後、シスコシステムズでB2Bのビジネス、サムスン電子でB2Cのビジネスのマネジメントを経験しました。その後、フィリップスの日本法人社長とグローバルのSEVP(シニアエグゼクティブバイスプレジデント)として、ヘルスケア関連のITや医療機器のビジネスに本格的に関わりました。

 縁あって2022年に富士通に移り、JapanリージョンCEOという立場で日本国内の事業全般を見ているのですが、それにはITや画像解析など医療機関向けのヘルスケアソリューション事業も含まれます。ビジネスの観点だけでなく、今後の私たちの生活を豊かなものにしていくうえでヘルスケアは非常に大きな要素なので、富士通としてもこの分野に注力しています。

北原 ITや医療機器に精通しておられ、かつマネジメントの経験も豊富な堤さんのお立場から、ヘルスケアの将来像についてどうご覧になっていますか。

 いまは診断、治療という病院の中でのヘルスケアが大きな比重を占めていますが、今後は病院の外における予防とか健康の維持・増進、あるいは介護などを含めて、私たちの生活や人生のエンド・トゥ・エンドにヘルスケアの領域が広がっていき、果たすべき役割も大きくなっていくと思います。

 心身ともに豊かな生活の基礎、中核になるのが健康ですから、その意味でヘルスケアというよりウェルビーイングという言葉を使うほうがふさわしいかもしれません。ウェルビーイングは肉体的、心理的、社会的、経済的に満たされた状態ですから、人々の生活と人生全般に関わるものであり、私たちがどんなビジネスを展開するうえでも常に必須の要素になってきます。

 富士通では、サステナブルな世界の実現を目指すグローバルソリューション「Fujitsu Uvance」の展開によって、社会課題の解決とビジネスの成長を両立させることを目指しています。そのFujitsu Uvanceの7つの重点分野のうちの一つが「ヘルシーリビング」で、これはウェルビーイングとほぼ同義です。当社が得意とするテクノロジーと、さまざまな業種にソリューションを提供する中で蓄積してきたナレッジを組み合わせ、ヘルシーリビングの分野におけるプラットフォームを構築し、社会にベネフィットを還元していきたいと考えています。