健康増進効果、医療費削減効果をデータで「見える化」
大川 予防と未病の分野では、個人の行動変容の難しさがよく話題になります。難しそうだな、面倒くさいなと思われてしまうと行動変容につながりません。堤さんがおっしゃるように、データによってシンプルにして、行動変容を促す仕組みはとても重要だと思います。

Yasuhiro Okawa
デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員 ライフサイエンス&ヘルスケア
堤 データを活用して「見える化」を進めることで、行動変容に大きな効果を発揮できると考えています。
たとえば、毎日歩く習慣を身につければ健康増進につながることは誰でも知っていますが、それを実践するのはなかなか難しい。そこで、1日1000歩のウォーキングで健康増進にどれだけの効果があり、日本の医療費がいくら下がるのかを具体的な数値として見える化する。それだけでも、皆さんの意識が変わってくるんじゃないでしょうか。
スポーツヘルスもそうです。皆さん学校時代、運動能力テストをやりましたよね。そういったことを社会人になってもやっているかというと、やってない。でも、誰でも簡単に参加できるプログラムになっていれば、興味を持つ人は多いと思います。そして、運動能力テストの結果を匿名でランキング化して、「あなたは、日本で何位です」と知らせてあげる。あまりにも順位が低いと、「もうちょっと運動しなくては」と行動変容を起こすきっかけになりますよね。技術的にはけっして難しいことではありません。
そのように、私たちのヘルシーリビングというコンセプトを、気軽に楽しみながら実践できるプログラムやサービスを増やしていきたいと思っています。
北原 個人の生活に密着した形で、予防・未病の取り組みを広げていくためには、病院の機能や医師の仕事のあり方も変わっていく必要があるかもしれませんね。そうした時、病院の機能、医師の仕事のトランスフォーメーションをどうサポートしていきたいとお考えですか。

Yutaka Kitahara
デロイト トーマツ コンサルティング
ディレクター
堤 おっしゃるように、これからの病院は病になってから診断・治療のために行くだけでなく、未病の人たちも健康を維持・増進するために通うところになっていくべきだと思います。そうなれば、医師の仕事も当然、変わっていきます。
ただ、医療従事者の方々は人手不足や長時間勤務で、いまでも大変なご苦労をされています。予防・未病の領域にまでその役割を広げていくためには、デジタル技術やデータを使った医療現場のDXによって医療従事者をサポートする必要があります。
ロボットやオンライン診療、AI(人工知能)など医療現場をサポートできる技術が発達しています。そうした新しい技術の実用化を進めるためには、テクノロジーを使いこなし、医師の判断や業務を支援できる「第二の医師」のような存在が必要なのではないかと考えます。そのための教育制度や国家試験なども検討すべき時に来ているのかもしれません。
大川 第二の医師というのは、興味深いコンセプトですね。
堤 プロサッカーの試合では、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)と呼ばれる審判員が、映像を確認しながらフィールドの審判員の判定をサポートしていますが、それと同じように最終的な判断はドクターが行う前提で、それを補助する情報系の専門医がいれば、医療現場での新しいテクノロジーの実用化、そしてDXがもっとスピーディに進むのではないでしょうか。
大川 DXを推進していくカギになるのは、やはり人材です。ヘルスケア業界はテクノロジーやデータサイエンスなどの専門的な人材が不足しているといわれていますので、ナレッジやスキルの移植、人材育成を含めて富士通への期待は大きいと思います。