「価値循環」モデルを社会実装し、次の世代にバトンを渡す

松江 人口減少が進むと、空き家や休耕地などリアルなスペースが増えますので、そうした未活用スペースを有効活用して、価値に変えていくことも大事です。そのヒントの一つが、千葉県匝瑳市(そうさし)にあります。

 匝瑳市では、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を起点に地域内での価値循環を生み出しています。ソーラーシェアリングとは、農地の上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業にも発電にも利用する取り組みです。同市のケースでは、地元NPOが中心になって耕作放棄地でのソーラーシェアリングに乗り出しました。太陽光発電による売電収入の一部を営農者のサポートに回すことにより、耕作放棄地で農業を再開できただけでなく、就農や移住の支援にも売電収入の一部を充て、新規移住者を増やすことに成功しています。

 化石燃料や原子力を使った巨大な発電所は、各地に張りめぐらせた送電線を使って需要者に電力を供給する一方通行の関係ですが、太陽光発電のような再生可能エネルギーは小規模な発電設備を設置し、電力の地産地消が可能になります。さらに匝瑳市のケースは、地元主体でのソーラーシェアリングですから、電力が地域内で循環するだけでなく、売電収入というお金の流れも地域で循環し、地域の魅力と価値を高めています。民間主導の地域創生の取り組みとして、注目に値するものです。

河合 今後は大規模な送電網や水道などのインフラをどう維持していくかが、大きな課題となります。これまで国土や自治体の再設計については、一極集中か多極分散のどちらを取るかという議論がなされてきましたが、私は「多極集中」にすべきだと主張しています。

 多極集中というのは、10万〜30万人くらいの人口集積地を地方圏にたくさんつくることです。既存の自治体のエリアに囚われることなく、周辺地域を含めて10万人くらいの商圏を形成できていれば、インフラや行政・民間のサービスを維持することができます。

 この10万人商圏が空港の近くにあれば、海外と直接、物の循環ができ、経済圏が広がります。先ほどのインバウンドのアウトバウンド化のように、デジタルでつながった国際的な関係人口の需要を取り込むことでビジネスチャンスが増えるのです。

 私は江戸時代の300藩や中世イタリアの都市国家のように、多極集中した都市圏同士がその魅力を競い合いながら、経済的に自立していけばいいと考えています。

松江 地域に蓄積された固有の資産を磨き上げて価値を出し、その価値を他の地域や海外と循環させることによって、成長していくモデルですね。河合さんのような大胆な発想の転換が、日本を動かしていくためには一番大事だと思います。

河合 まずは、この先50年くらいを乗り切ることです。政府だけでなく私たち一人ひとりが発想を変え、人口減少下の成長モデルを社会実装していくことで、次の世代にリレーしていくのが我々に課せられた責任だと思います。

松江 世界はいま、拡大の「20世紀型」社会から、人口減少を前提とした「22世紀型」へのモデルチェンジを迫られています。21世紀はその転換のための世紀です。20世紀末から21世紀初頭に「失われた30年」という停滞期に直面した日本は、モデルチェンジのタイミングを他国より早く迎えただけだと前向きにとらえることもできます。すなわち、世界に先駆けて「価値循環」モデルをつくり上げ、22世紀型社会へ一足早く移行できるアドバンテージがあるということです。

 フランスの哲学者アランは、「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである」と述べていますが、価値循環による成長戦略という意志ある楽観主義によって、「失われた30年」を22世紀モデルの「始まりの30年」に変えることで、日本を世界のトップランナーに押し上げ、次世代にバトンを渡したいですね。

* 『価値循環が日本を動かす 人口減少を乗り越える新成長戦略』について詳しくは、こちら