
神戸大学では、臨床現場を持つ強みや医療産業・研究開発機関が集積する地の利を活かし、医療機器開発における日本型エコシステムの形成を推進している。そこで重視しているのは、医療機器開発をリードできる創造的およびプロデューサー的人材の育成であり、多様な知見やバックグラウンドを持つ国内外の人材のネットワーキングである。
同大学大学院医学研究科医療創成工学専攻/未来医工学研究開発センターの保多隆裕、村垣善浩の両教授に、日本型エコシステム形成のあり方、革新的医療機器開発の方向性について、デロイト トーマツ コンサルティングの立岡徹之氏、植木貴之氏が聞いた。
医療機器開発のプロフェッショナル人材を育成する
植木 神戸大学では医療機器開発のエコシステム形成を進めていらっしゃいます。その概要についてご紹介いただけますか。
保多 医学部附属病院という臨床現場を持っている強みを活かして、医療機器開発に携わる多様な人材の集積を図ると同時に、医療機器開発を牽引する人材の教育・育成に取り組んでいます。
実際の開発は、医学部附属病院および分院の国際がん医療・研究センター(ICCRC)を現場とし、全学組織の未来医工学研究開発センターと2023年4月に発足した大学院医学研究科医療創成工学専攻が連携して推進します。医療創成工学専攻は主にこの初期開発プロジェクトの実践の中で医療機器開発のプロフェッショナル人材を育成します。また、医学部附属病院の臨床研究推進センターと医工探索創成センターが初期開発から社会実装までの全般の支援および社会人(企業人や医療従事者など)のアップスキリングをAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)次世代医療機器連携拠点整備等事業の下で実施します。

Takahiro Yasuda
神戸大学
大学院医学研究科医療創成工学専攻 医療機器システム学分野長 特命教授
未来医工学研究開発センター 機器開発推進部門長
医学部附属病院 医工探索創成センター 副センター長
開発の実践、大学院教育・アップスキリング、開発支援の3つの機能が大学をプラットフォームとした医療機器開発のエコシステムの中核を成しており、さらには大学内の臨床研究推進センターが臨床試験を、統合型医療機器研究開発・創出拠点(MeDIP)が非臨床試験をサポートするなど、学内横断の協働体制を組んでいるのが特徴です。
村垣 医療機器開発のエコシステム形成は、日本全体の課題です。ですから、私たちは政府や地元・神戸市と連携しながら、エコシステムの整備を進めているところです。当大学を中心とする取り組みは、AMED(日本医療研究開発機構)の支援を受けていますし、神戸市と連携した神戸未来医療構想にも密接に関わっています。
立岡 エコシステム形成を進めるうえで、カギとなるのは何だとお考えですか。
保多 人を育てることだと思います。よりよい医療を実現するためにより優れた医療機器が必要なことは言うまでもありませんが、ハードウェアにしろ、ソフトウェアにしろ、新たな医療機器をつくるのは人です。
人を育てるための教育の場、初期開発から社会実装までを実践する場、その両方を連携させることによって、医療機器を創造できる人材およびプロデュースできる人材、特に開発プロジェクトを一気通貫でリードできる人材を社会に送り出せるのではないかと、私たちは考えています。後者の人材を私たちは「メディカル・デバイス・プロデューサー」(MDP)と呼んでいますが、クリエーションの起点となる創造人材と同時に、産業と学術、医学と工学の連携を橋渡しして、多様なメンバーで構成される開発プロジェクトを牽引できる人材が、日本にはもっと必要です。
村垣 これまでの医工連携では、医者の側が「こういう医療機器が必要だ」というニーズを示し、工学者は「こういった技術がある」とシーズ(種)を提供するという役割分担でしたが、社会実装を見据えて、プロジェクト全体をマネジメントできる人材がいませんでした。

Yoshihiro Muragaki
神戸大学
大学院医学研究科医療創成工学専攻 副専攻長 教授
未来医工学研究開発センター センター長
医学部附属病院 医工探索創成センター センター長
私が長く医療機器開発に携わってつくづく思うのは、社会実装まで持っていくためには、医療現場のニーズに合ったものを、ビジネスとして成り立つ形で世に出す必要があるということです。利益を伴わない医療機器の開発は続けられませんし、医療現場に普及せず、最終的に多くの患者さんに届かないのです。
たとえば、価格が高すぎるのであれば、最先端の技術の代わりに枯れた技術を使ってコストを下げられないか。そういう事業性の視点を持って、医療機器をプロデュースしていく人材が求められています。