開発の早い段階から事業性の視点を持ち、
知財化やマーケティングも検討
保多 手術室や治療室のさまざまな医療機器を連携させる画期的なシステム「SCOT」の開発プロジェクトを率いて成功に導いた村垣先生のように、日本にも創造的かつMDP的な人材はいらっしゃるのですが、その知識やノウハウを次世代へ引き継ぐ仕組みがないと、後に続く人が出てきません。ですから、私たちはエコシステムを形成することによって、創造人材やMDPが継続的に育つ仕組みを整えたいのです。
植木 多様な人材のコラボレーションが必要不可欠な医療機器開発において、MDPはどう開発するかという「know how」を知っているだけでなく、必要な知見を持つ人材といつでもつながれる「know who」が特に重要だと考えます。米国のエコシステムは、そうした人材の集積やつながりが強みとなっています。

Takayuki Ueki
デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー ライフサイエンス&ヘルスケア
保多 私たちも医療機器産業の集積地である米国のシリコンバレーやミネソタ州を視察しましたが、「人のネットワーキングが重要だ」という言葉を何度も聞かされました。
何かわからないことがあったらすぐに聞ける人がいる、あるいは、誰かを紹介してもらえる。そういう人脈があるかどうかで、開発のスピードや成功確率が大きく左右されるのは間違いないと思います。
教育・育成のプログラムを設計するうえでは、理系・文系を問わずさまざまなバックグラウンドを持つ企業人、医師、臨床工学技士や看護師などの医療従事者、工学系の研究者、学生など、多様な人たちがともに学び、開発の実践に取り組めるようにすべきですし、自然と人的ネットワークが形成されるようなコミュニティを増やしていく必要があります。私たちはそうした拠点づくりを目指しています。
村垣 神戸は医療産業の集積都市の一つですので、医療機器メーカーに対して「私たちと一緒に開発しませんか」とプレゼンしやすい環境があるのは利点です。それを活かしたネットワークやコミュニティづくりを進めたいですね。
保多 米国やイスラエルのエコシステムがうまく機能している理由の一つは、スタートアップへの投資やM&A(合併・買収)などを通じて、スタートアップと大企業、大学、ベンチャーキャピタル、アクセラレーター(スタートアップの成長を支援する人や会社)などで構成されるエコシステムの中で、人材が活発に流動していることです。その人の流れが、人的ネットワークの形成につながっています。
日本でも、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターなどを含めて、ベンチャーエコシステムのピースは徐々に揃いつつありますが、人の流れを通じてエコシステムのプレーヤーが有機的につながるところまでは、まだまだ成熟していません。日本における医療機器開発のエコシステムの中心的な役割をスタートアップのみならずアカデミアが担い、人材育成の場であると同時に、人の流れを生み出す場、すなわちプラットフォームとして産官学連携によって成長させていくことが今後は求められると考えています。
立岡 企業人と医療従事者、エンジニアとデザイナーなど育ってきた環境や文化が違う人同士だと、同じ単語を使っていても意味するところが異なる場合があります。ですから、単に集まって対話するだけではお互いの立場を主張するだけですれ違ったまま終わってしまうことがあります。やはり、一定の人材の循環によって、「企業村」「技術村」「医療村」というそれぞれの「村」の文化を超えた経験を持つ人材、それぞれの「村」の論理を理解しつつそれを超えて最適解を実現できるリーダーの育成が、エコシステム形成において大きな意味を持つと思います。

Tetsuyuki Tatsuoka
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー 執行役員 ライフサイエンス&ヘルスケア
保多 おっしゃる通りです。違う文化や思考を持つ人と協働することで、大きな刺激を受けます。当大学の育成プログラムの参加者を見ていると、異なるバックグラウンドを持つ人たちと一緒にニーズを探索したり、プロトタイピングを通じてコンセプト創造したりすることをみんなとても楽しんでいるのが、よくわかります。
植木 年齢やバックグラウンドは違っても、同じプログラムを履修する立場、同じ目標を持ってプロジェクトに取り組む立場で、フラットなコミュニケーションができれば、オープンマインドな関係性を構築できるでしょうね。日本では年齢や組織上の立場などを慮りすぎて、オープンな関係を築けない面があります。
村垣 私たち医師は「先生」と呼ばれますが、米国のようにファーストネームで呼び合えると違うのかもしれませんね。呼称はともかく、問題はマインドセットなので、おっしゃるようにフラットでオープンな関係をつくっていくことが、大事だと思います。
立岡 どちらかが正解を知っている立場で、他方はそれを教えてもらう立場という関係になってしまうと、正解のない課題の解決は進みません。
村垣 自省を込めて正直に言えば、医療機器開発において早い段階から事業性の視点を持つことが重要だと心底思うようになったのは、ここ数年のことです。それまでは、とにかくいいものをつくりたい一心で、実用化までは何とか到達するのですが、ビジネスとしてどう成り立つのかという視点が欠けていました。
ですから、人材育成でも開発の実践においても、事業性の視点をけっして外してはいけないと思っています。
保多 開発の早い段階から、マーケティングや知財化について検討しておくことも、事業性を担保するうえで大事なポイントです。