サマリー:サステナビリティ開示のルールが刻々と変化すると同時に、ステークホルダーからの開示要求が高まっている。開示対応に終わらない、サステナビリティ経営の高度化をどう実現していくべきか。

サステナビリティに関する情報開示や具体的なアクションについて、企業が株主提案を受ける例が増えている。これを新たな脅威ととらえ、開示ルールへの対応を急ぐ企業が増えているが、サステナビリティ経営の本質はそこではない。

開示のための開示に終わらせず、ステークホルダーからの要求の高まりを変革のチャンスととらえた企業が、競争力を高める——。デロイト トーマツでサステナビリティ・気候変動領域のリーダーを務める赤峰陽太郎氏と、SAPジャパンのCSO(最高サステナビリティ責任者)である水谷篤尚氏は、そう口を揃える。サステナビリティ経営の本質をとらえた、企業価値向上プロセスとそのマネジメントのあり方について、両氏に聞いた。

ゴーイングコンサーンの本質に則った経営が、
サステナビリティ経営

――コーポレートガバナンス・コード改訂により、2022年4月から東京証券取引所上場企業は、プライム市場上場企業を中心により高い水準のサステナビリティ情報開示を求められるようになりました。こうした制度対応を含めて、国内でもサステナビリティ経営の必要性に対する認識は高まりつつありますが、そもそもサステナビリティ経営の本質をどうとらえるべきでしょうか。

赤峰 ゴーイングコンサーンの言葉に代表されるように、企業は将来にわたって継続して事業活動を行うことが前提です。企業会計の専門用語としてとらえると、現状では財務諸表上での短中期的な数値やトレンドが着目されがちですが、企業の永続性の本質的な概念は、地球環境や社会との共存も含めたもっと広くて長期的なものです。すなわちサステナブル経営とは、ゴーイングコンサーンの言葉の本質に則った、企業経営の一丁目一番地と言っていいでしょう。

 特に10年を超えるような長期にわたって付加価値を生み続けられるかどうかは財務情報だけでは判断できず、本質的には非財務情報に負うところも大きいのですが、情報が非定型で比較しづらく、これまでは開示できたとしても「CSRレポート」のような形で限定的なものでした。

 ところが昨今、測定技術やデータ処理技術の発達、ソリューションの進化とあいまって、ESGデータの開示が脚光を浴び、ルールが整備されてきたと認識しております。つまり、企業も個人と同様、社会に受け入れられるように活動そのものをサステナブルの方向にシフトし、適切に開示をしなければ投資家に受け入れられず、ひいては企業価値そのものに大きな影響が出る時代になったのです。要するに企業も地球のエコシステムの一員であり、環境や社会に対してよいインパクトを与え続ける存在でなければなりません。

 利益をきちんと出し、株主に還元する、適切な税金を納めることを通じて国や地域にも還元する。それは社会的役割として大事なことですが、いまはそれに加えて従業員や顧客、地域社会、サプライチェーンでつながっている取引先や原材料の生産地、さらには生態系などさまざまなステークホルダーとサステナブルで良好な関係を構築することが、社会で存在し続けるための前提となっています。

 それが開示ルールを含むサステナビリティ関連の諸制度として整備されつつある現在のグローバルな状況は、ゴーイングコンサーンがより本質的に再定義され、それに則った企業経営がサステナビリティ経営であるという、大きなメッセージとしてとらえる必要があると思います。

――SAPは世界的なESG(環境、社会、ガバナンス)関連指数「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス」において、15年連続でソフトウェア部門のトップ企業に選出されるなど、サステナビリティ経営の先進企業として知られます。SAPの経営において、サステナビリティはどのように位置づけられているのでしょうか。

水谷 いま赤峰さんがおっしゃった言葉は、SAPが掲げる「世界をより良くし、人々の生活を向上させる」というパーパスにも通じます。私たちは、地球のエコシステムの一員として、よりよい経済、環境、社会的影響の創出を目指しています。つまり、サステナビリティというテーマは、SAPのパーパスそのものといえます。

 そういった背景もあって、SAPは自社が率先してサステナビリティに取り組む「Exemplar」(イグザンブラー)と、SAPのテクノロジーによってお客様のサステナビリティ実現を支援する「Enabler」(イネーブラー)の両面で活動しています。

――具体的には、どのような活動を行っていますか。