住民の当事者意識が不可欠 デンマーク・サムソ島の事例

 では、実際に地域で自律協生社会が実現した例はあるのだろうか。

日本総合研究所
取締役専務執行役員
木下輝彦
TERUHIKO KINOSHITA

 その具体例として、木下氏は「100%自然エネルギーによってエネルギーの自給自足を達成した地域として世界的に知られるデンマーク・サムソ島の取り組みがわかりやすいと思います」と解説する。人口約4000人のこの島は、島全体で一つの自治体を形成している。政府が1997年に公募した島における自然エネルギー導入計画に参加。風力発電を中心にエネルギーの100%自給を目指すモデル地域として取り組みを始め、わずか10年で実現させた。「成功した大きな要因は明確で、住民がオーナーシップ(当事者意識)を持って計画段階から参加したことです。プロジェクトに参加した企業は住民との協生が求められますが、住民もみずからコミットしたことについては、不満や苦情が出にくく、折衝や交渉にも前向きになるので、成功しやすくなります。こうした傾向は、社会心理学の観点からも、明らかなようです」(木下氏)

 まさに自律協生が成功のカギになったわけだ。日本総研では、自律協生社会を実現する重要領域としてエネルギーや地域交通、ヘルスケア、教育などの社会インフラを挙げている。自律的に自走し始めている共同体から自律協生社会の具現化を支援していく方針だ。

 もっとも、いまの日本では自律協生社会の実現は容易ではない。「地域や職場でも、当事者意識を持てる共同体が減っており、『この組織・人のためなら』という利他的な考えがなかなか育たない状況です。『会社・地域のコミュニティに育てられた』という実感がなければ、そのコミュニティのために自分も貢献しなければならないという意識も育たないでしょう。まずは市民と自治体、企業が当事者意識を持って主体的に動き出せるような働きかけが必要だと思っています」と指摘する。

 その具体的な働きかけの一つが武蔵野美術大学との共同研究拠点「自律協生スタジオ」(コンヴィヴィ)の開設だ。ここが、自律協生社会の実現に向けた研究・実践・創造の現場であり、先行する活動として、北海道森町、和歌山県田辺市、熊本県天草市をフィールドに、自律協生の地域づくりに取り組んでいる。「衰退しつつある地域が活気を取り戻すには、人の持つ力を引き出したり人と人とをつないだりして、その人たちの力で課題解決を図れるようになることが必要です。そのための支援を実践しつつ、方法論を明らかにすることをコンヴィヴィでは目指しています。たとえば、森町では、業界の垣根を超えたコミュニティをつくることで、漁業者と林業家の間でプロジェクトが始まるなど、これまでになかった動きが生まれています。地元の豊かさをそこに住む人自身が実感し、それを子どもたちにも伝えてゆくことで、地元に対する誇りが回復することを期待しています」

 いまは地域づくりから先行しているコンヴィヴィだが、今後、テクノロジーとの協生などにも活動を広げていく予定だ。また、自律的な地方創生実現のため、スマートシティの社会実装にも取り組んでいる。たとえば「スマートシティ社会実装コンソーシアム」では、日本総研が事務局として企画機能を担っており、約60社の社会インフラを担う企業と、ほぼ同数の国・自治体、約30の大学研究機関がテーマ別分科会に分かれ、産官学が連携した持続可能な仕組みづくりを行っている。加えて同社は、地域の課題解決に役立つ官民連携手法や政策提言のほか、事業スキームを検討・支援するさまざまな機能を有している。

「当社の大きな強みは、マクロ経済分析と政策提言を行う調査部、共創の場づくりと運営を通じて新規事業の立ち上げを支援(インキュベーション)する創発戦略センター、企業や自治体への実装支援を行うコンサルティング部門という3つの機能があり、これらが一体となって『地域の課題解決』に全力で取り組むことができる点です」と木下氏は力説する。