サマリー:世界に先駆けてさまざまな社会課題に直面している課題先進国ニッポン。特に人口減少は「静かな有事」であり、経済力や国民の生活レベルの低下につながる深刻な問題だ。日本企業はどのように対応すべきなのか。

世界に先駆けてさまざまな社会課題に直面している課題先進国ニッポン。特に人口減少は「静かな有事」であり、経済力や国民の生活レベルの低下につながる深刻な問題だ。国は「異次元の少子化対策」で減少を何とか食い止めようとしているが、十分な効果は期待できない。「人口はこれからも減り続ける」という予見可能な未来を受け入れ、それでも経済成長が実現できる方法を模索すべきだ。

「異次元の少子化対策」では人口減少を抑えられない

 厚生労働省が発表した2022年の人口動態統計によると、日本の出生数は7年連続で減少し、ついに80万人を割り込んだ。少子化の勢いは年々強まり、人口減少を加速させている。

 勢いに歯止めをかけるべく、岸田文雄内閣は、数兆円規模に上る児童手当の拡充や、子育て支援の新規給付制度創設などを柱とする「異次元の少子化対策」を打ち出した。

 しかし、「どんなに子育て支援を強化しても、出産適齢期の女性が減り続けている状況を考えると、出生数減を抑えることは不可能です。『異次元の少子化対策』の効果は、極めて限定的なものに留まるでしょう」と語るのは、人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司氏である。

人口減少対策総合研究所 理事長
河合雅司
MASASHI KAWAI
産経新聞社論説委員を経て、現職。高知大学経営協議会委員、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員などのほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。超党派の「人口減少時代を乗り切る戦略を考える議員連盟」(人口減少戦略議連)特別顧問。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数。著書に累計100万部超のベストセラー『未来の年表』(講談社現代新書、2017年)シリーズのほか、『未来を見る力』(PHP研究所、2020年)、『コロナ後を生きる逆転戦略』(文藝春秋、2021年)など多数。

 河合氏によると、出産している人の約9割は25~39歳で、その年齢層の女性の人口は、向こう25年間で約25%も減少する。「安心して子どもを産める制度」を整えたとしても、そもそも出産できる女性の数が減り続けていくのだから、少子化の勢いに抗うのは“無駄な抵抗”といえそうだ。

「少なくとも25年先までは、出生数減が続くことになります。人口が減り続けるということは、過去の少子化のツケであり、『変えられない未来』なのです」(河合氏)

 出生数が増やせないのなら、「外国人をもっと受け入れればいいのではないか」という話になりがちだ。

 民間有識者による令和国民会議(令和臨調)は2022年6月、人口減対策に関する政府などへの提言を公表したが、その中でも「外国人1割時代」への対応が取り上げられた。

 しかし、「政府も2016年から2019年の入国超過数をもとに、毎年16.4万人ずつ外国人が増え、50年後には『外国人1割社会』が到来すると推計しています。だが、これは期待値です。来日者がすべて定住者や永住者になるわけではありません」と河合氏は語る。

 どの国や地域から、どれだけの人数を定住者、永住者として受け入れられるのかという具体的な見通しがあるわけではなく、人口減少を食い止める動きにはなっていないのが実情だ。

 AIやロボティクスなどを活用すればいいという意見もあるが、これも「人口減少問題の本質的な解決にはつながらない」と河合氏は言う。

「なぜなら、AIや機械は働いてくれるけれど、消費や納税はしないからです。人口減少問題では、人手不足ばかりにスポットが当てられがちですが、市場の縮小や、税収不足の増加につながることも大きな問題です」