三菱総合研究所は、日本を代表する「シンクタンクの老舗」であり、多くの調査分析や実証研究で成果を出してきたことで知られている。こうした従来の強みに加え、具体的な「提言」や「社会実装」にまで踏み込み、さまざまなパートナーとともに社会課題解決に本気で取り組もうとしている。その理念を実行する手段が「VCP経営」だ。ヘルスケア分野を例にその神髄を紹介する。
「真の社会課題解決企業」に向け新中期経営計画を公表予定
三菱総合研究所(三菱総研)は、2023年11月にも新中期経営計画を公表する。最も重視しているのが「真の社会課題解決企業」になることであり、その基盤となるコンセプトが現中計で開始した「VCP経営」だ。
VCP(Value Creation Process)とは「価値創造プロセス」(バリューチェーン)のこと。VCP経営は2020年の創業50周年に経営理念を刷新した際、掲げた基本方針だ。あるべき未来を「価値創造の起点」とし、同社グループが持つ「研究・提言」「分析・構想」「設計・実証」「社会実装」という4つの機能のバリューチェーンで社会課題を解決し、理想的な「未来社会の実現」を目指す(図表1参照)。
代表取締役社長の籔田健二氏は「重要なのは、課題解決策の提示に留まらず、それを実行する社会実装まで手掛けることです。これは、受動的になりがちだったスタンスを、より能動的なものに変えていこうという意識改革の取り組みでもあります。VCP経営では、従来から当社の強みとしてきた調査分析・コンサルティングを基盤にウイングを広げる形で(図表1)、課題解決に向けた『研究・提言』と、それを実行する『社会実装』をいっそう強化していきます」と説明する。

代表取締役社長
籔田健二氏
KENJI YABUTA
実際に、研究・提言の機能分野では、政策議論に一石を投じるような渾身のリポートを相次いで発表している。たとえば、エネルギー分野では『カーボンニュートラル達成に向けた移行の在り方』などを発信。他分野では『CX2030:バーチャルテクノロジー活用の場としての広義のメタバース』や『関東大震災から100年、全体で助け合う「レジリエントな社会」の実現へ』などのタイムリーで話題性のあるリポートもある。社会実装においても、オランダKYOS社と共同開発した電力フォワードカーブモデルを活用した卸電力取引向けオンライン情報サービス「MPX」(MRI Power Price Index)やメガソーラー発電事業を手掛け、書類選考AIツール「PRaiO」、名古屋市の電子商品券「金シャチマネー」などの事業にも参画。着実に実績を積み重ねている。
籔田氏は「さまざまな分野の専門家が強みを持ち寄って共創するコレクティブ・インパクトが重要になります。当社グループ会社で金融向けITサービスに強みを持つ三菱総研DCSと一体となった取り組みのほか、マイクロソフトの主要ベンダーであり生成AIを実装したサービスを提供するJBS(日本ビジネスシステムズ)や全国の自治体にウェブ型総合行政システムを提供しているアイネスとの協業を強化していきます。新規事業創出では、ベンチャーや海外企業などとの共創も積極的に推進します」と強調する。