ヘルスケア分野におけるVCPの取り組み

 同社は、社会課題解決に向けて、(1)エネルギー、(2)ヘルスケア、(3)人財、(4)都市・モビリティ、(5)情報通信、(6)食農、(7)循環、(8)レジリエンスの8分野を重点分野に挙げている。なかでも、「少子高齢化」に伴い社会保障関係費の増加が大きな課題となっていることから、ヘルスケア分野におけるVCP、価値共創を強化している。

 三菱総研の試算によると、このままの傾向が継続すれば、社会保障関係費は現状の約50兆円から2050年には100兆円超にまで膨らむ見込みであるという。

 こうした課題を解決するにはどのような対策が必要なのか。

 VCPを総括する全社連携事業推進本部参与の榎本亮氏は、医療・介護費の削減策として2つの対策を挙げる。

「一つは、医療機関と介護サービス事業者の業務効率化によるコスト削減。たとえば、ICTやAI、ロボットなどを活用した生産性や効率の向上。もう一つは、国民の医療・介護サービスを利用する機会を減らすこと。健康の維持・増進、病気の予防・早期発見・治療による健康寿命の延伸が重要になります。当社ではこれらの対策の社会実装に取り組んでいます」と解説する。

三菱総合研究所
全社連携事業推進本部
ヘルスケア分野担当本部長
参与
榎本 亮
AKIRA ENOMOTO

 ヘルスケア分野においても、政策立案や制度設計など(分析・構想と設計・実証機能)は、同社の大きな強みだ。実際、厚生労働省からの受託業務として医療・介護制度関連の調査・研究をはじめ、医療・介護レセプトデータ解析に基づく政策支援、制度改定に関するコンサルティング、実証研究支援などに長年携わっている。

 こうした豊富な経験と知見を活かし、当面の大きな政策課題である医療・介護のデジタル化を支援。課題解決に向けて「研究・提言」と「社会実装」に力を注いでいる。

「研究・提言では、デジタル化によって持続可能な健康長寿社会を支える制度のあり方などを提案しています。一方、社会実装では、社会課題の解決を目指す会員プラットフォーム『未来共創イニシアティブ』(ICF)や社会課題解決型ビジネスを広く募集するビジネスアクセラレーションプログラム(BAP)を活用してビジネスパートナーの探索・連携を進め、すでに複数のサービスをリリースしています。また、オムロンなどが2023年6月に設立した『健康経営アライアンス』に当社も参加。健康経営の型づくりや、ヘルスケア関連のデータを活用した健康の維持・増進、健康経営に関する新たな製品・サービスの開発・実証などに取り組んでいく方針です」(榎本氏)

デジタル化が介護人材の需給ギャップを解消する

 では、実際に、ヘルスケア分野における「研究・提言」と「社会実装」には、どのような事例があるのだろうか。

 2023年の3月に発表、提言された『介護のデジタル化が介護難民を救う~69万人の介護人材需給ギャップの解消に向けて』というリポートでは、予防医療・介護のデジタル化によって介護人材の需給ギャップを解消できるかどうかを試算した。合わせて、デジタル化の普及に向けた施策も提案している。

三菱総合研究所
政策・経済センター
研究員
有田匡伸
MASANOBU ARITA

 政策・経済センターの有田匡伸氏は「厚生労働省は『2040年に69万人の介護人材が不足する』という試算結果を発表しています。それに対して当社では、予防医療と介護のデジタル化によって介護サービスの需要や生産性、人材流入にどのような影響が出るかを研究し、介護人材の需給ギャップを試算しました」と解説する。