「国内市場の縮小」は必至 日本企業はどう対応すべきか
結局、人口減少を食い止められる抜本的な策はない。そうであれば、「人口が減り続けても、経済成長ができるモデルに転換していくしかありません」というのが河合氏の提言だ。
その方向性は明快である。
「国内市場が縮小していくのなら、海外のマーケットを取りにいくしかありません。これまで多くの日本企業は主に国内で利益を上げてきたわけですが、海外で売れる製品・サービスを生み、利益を稼ぐビジネスモデルをつくり上げていくのです」(河合氏)
もちろん、主に国内市場でビジネスをしてきた企業が、海外市場に打って出るのは容易ではない。
どんな製品やサービスが受け入れられるのかは国・地域によっても異なるし、時代の変化とともにニーズや消費行動は目まぐるしく移り変わるからだ。
「国内市場でビジネスをしてきた日本企業は、人口1億人以上もの比較的大きな市場規模があり、日本語というバリアで外資の攻勢から守られてきたので、さほどマーケティングの努力をしなくても売上げを伸ばすことができました。しかし、海外に打って出るのなら、しっかりとしたマーケティングを実践しないと勝ち目はありません。そのためには準備が必要ですが、国内市場がまだそれほど大きく縮小していないいまのうちに始めておく必要があります」と河合氏はアドバイスする。
河合氏によると、これまでの20年間は小規模な自治体を中心に人口減少が進んだが、今後は県庁所在地など、比較的大規模な自治体でも急激に人口が減り、マーケットの縮小ペースが加速する。国内市場を中心にビジネスをしてきた企業に、残された時間はあまり多くないといえる。
「2030年代に入ると、国内市場の縮小がいよいよ顕著になりますので、2020年代のうちに海外市場に打って出るための準備を終わらせておくことです。ターゲットとする国・地域を定め、しっかりと市場調査を行って、事業戦略や事業体制づくりなどを進めるのです」(河合氏)
そのうえで河合氏が提唱するのは、ビジネスモデルだけでなく、収益構造も見直すことだ。
「『よりよいモノを、より安く、大量につくる』という日本企業の典型的なモノづくりは、人口減少による国内市場の縮小と労働力不足で立ち行かなくなっています。薄利多売型の商売が人件費の抑制につながり、結婚できない若者が増えて、少子化と人口減少を促すという悪循環の根源にもなっているのです。欧州企業のやり方などを参考に、薄利多売からの脱皮を図るべきではないでしょうか」(河合氏)
たとえば、ドイツの高級車ブランドであるポルシェの1台当たり利益は、同じフォルクスワーゲングループの大衆車1台の約30倍に上るというのは有名な話である。「少ない人数でも、より多くの利益を生み出せるように、ブランドや知的財産の価値を高めるビジネスに転換していくことが、人口減少時代を勝ち抜いていく重要な条件だといえます」と河合氏は指摘する。
人口減少は、変化に気づきにくい「静かな有事」(河合氏)だ。「だからこそ、変わらなくてもいい、変わりたくないという『現状維持バイアス』が働き、企業も、日本という国そのものも、何の手も打たないまま破滅に向かってしまう可能性があります。そうなる前に、しっかり手を打っておくべきです」と河合氏は語った。