プレッシャーが呼び水となる
不健全な対処メカニズム

 欧州のある都市で事業を行う公共交通局のCEOから、新任のHR責任者をコーチングしてくれないかと、筆者らに依頼があった。6カ月前に執行委員会に加わったジョスリン(仮名)が、チームにうまく溶け込めないという。彼女のそうした態度のせいで戦略開発の取り組みが妨げられていると、CEOは訴えた。委員会が開発していた戦略は「市の拡大する交通ニーズに、よりサステナブルな形で応える」ことを目的とするものだった。

 筆者らは、ジョスリンの部下や同僚、上司、外部のステークホルダーに話を聞いた。執行委員会のメンバーは、彼女が過度に内向的で非協力的だと考えていた。しかし、ジョスリンの部下に尋ねると、彼女は優秀で協力的だとの印象を持っており、筆者らはその違いにひどく驚かされた。

 やがて、実は彼女が着任する前から、執行委員会は首尾一貫した戦略を策定できずに苦労していたことが明らかになった。インタビューを進めていくうちに、大きな問題が見えてきたのだ。具体的には、公共交通が行きわたっていない地域にインフラを拡充していくことと、公共交通システムをより環境に優しいものにしていくこととの間で、意見が分かれていた。そして、両方を実現できる資金の余裕はなかった。