サマリー:カスタマーサクセスは、単に特定の組織や活動を指す言葉ではなく、顧客に継続的に価値提供していくためのコンセプトや仕組み全体を表す。プロダクトサクセスモデルが限界を迎えた今日、その本質を理解する必要がある... もっと見る 閉じる

日本でもベストセラーとなった『キャズム』や『ゾーンマネジメント』の著者であるジェフリー・ムーア氏は、20世紀型のプロダクトサクセスモデルから21世紀型のカスタマーサクセスモデルへの転換が、多くの企業にとって急務になっていると指摘する。カスタマーサクセスプラットフォームを提供するGainsightの絹村悠氏は、その転換には慎重かつ大胆な企業変革が必要だと応じる。2人の対談から、21世紀型ビジネスモデルへの転換の道のりを探る。

プロダクトサクセスからカスタマーサクセスへ

絹村 米国でも日本でも、一部の先進的企業はビジネスモデルあるいはバリューチェーンを従来の製品主導型から顧客主導型へとシフトさせています。なぜこのようなパラダイムシフトが起きているのでしょうか。

ムーア 製品主導型から顧客主導型へのシフトは、私がこれまでのキャリアで経験した最も大きな変化です。

 1990年代までは先進国企業であっても、グローバルな生産・供給ネットワークを構築できていませんでした。そのため、製品の供給には制約があり、需要がそれを上回っていました。常に、製品に稀少性があったのです。

 ですから、先進国企業はグローバルサプライチェーンの構築とその改善に懸命に取り組み、製品を低コストかつ効率的に供給することを目指しました。その結果、製品の稀少性が解消され、製品主導モデルで大きな成功を収めました。

 しかし、供給が需要を上回るようになると、顧客の稀少性が新たな課題として浮上しました。グローバルサプライチェーンではなく、顧客の要望や手にしたいアウトカム(成果)を的確にとらえ、顧客との長期的な関係を維持できるかどうか。それが成長の制約条件になっていったのです。プロダクトサクセスから、カスタマーサクセスへの転換。それが、いま私たちが経験しているパラダイムシフトです。

絹村 プロダクトサクセスからカスタマーサクセスへのモデルチェンジは、すべてのセクターに広がっていくのでしょうか。

ムーア 製品の稀少性こそが価値を生む一部のセクターや市場では、プロダクトサクセスモデルが今後も機能しますが、大半のセクターではカスタマーサクセスモデルへの変革が必要になります。

 歴史的に製品主導型だった自動車セクターを見てみましょう。