日本のよき伝統を活かすカスタマーサクセス
絹村 カスタマーサクセス実現のために、自社のバリューチェーンを製品主導型から顧客主導型へとシフトするには、抜本的な企業変革が必要です。そこでは、慎重さと大胆さの両方が求められます。
ムーア 私は、ディスラプション(創造的破壊)に直面した企業が、それにどう対応し、みずから破壊的イノベーションを起こしていくためにどうすべきかを「ゾーンマネジメント」というフレームワークにまとめました。このフレームワークは、バリューチェーンの転換にも応用できます。
私たちがディスラプションについて語る時、アマゾン・ドットコムやテスラなどディスラプター(破壊者)の視点から語りがちですが、既存の企業のほとんどはディスラプティ、つまり破壊される側です。
ディスラプティ企業は、既存のビジネスモデルが力を失いつつあるにもかかわらず、その既存事業から利益を上げているため、非常に困難な立場に立たされます。既存事業を守りながら、将来に向けてイノベーションを起こし、新しいビジネスを育てていかなくてはならないからです。
製品主導型バリューチェーンから顧客主導型への転換も同じで、規律に基づく変革マネジメントを行わなければ、バリューチェーンの転換は失敗します。
ゾーンマネジメントは、企業活動を新規事業を育てる「インキュベーション」、新規事業を拡大する「トランスフォーメーション」、既存事業で成果を出す「パフォーマンス」、生産性を上げる「プロダクティビティ」の4つのゾーンに分けて、それぞれを独立させて経営資源と目標を管理するフレームワークです。
このフレームワークに沿って、顧客主導型バリューチェーンはまずインキュベーションゾーンで立ち上げます。仮に失敗しても企業全体の存続に大きな影響を与えないゾーンで始めるのです。ここではスタートアップのような柔軟性が求められます。
そして小さな失敗から素早く学び、勝ち筋が見えてきたら顧客主導型バリューチェーンを拡大するトランスフォーメーションゾーンへ移行します。ここではCEOが直轄する新たなチームを編成し、短期間で拡大することを目指します。ここでうまくいったら、新たな収益源としてパフォーマンスゾーンへと移行するわけです。
絹村 変革のリスクが大きいパフォーマンスゾーンでいきなりバリューチェーンの転換を図るのではなく、インキュベーションゾーンでリスクを抑えながら小さく始めて、柔軟かつ迅速にスケールアップしていくことがポイントですね。
ムーア トランスフォーメーションゾーンで、拡大に成功するという保証はどこにもありませんが、ここで失敗すると将来的な企業の存続や成長が危うくなります。その意味で最も重要かつ難しい挑戦です。
私がGainsightのグローバルCEOであるニック・メータさんと話した時、彼は「企業によっては、トランスフォーメーションゾーンをトランジションゾーンに置き換えてもいいのではないか」と言いました。つまり、インキュベーションゾーンからパフォーマンスゾーンへの移行を、より時間をかけて段階的に行ったほうがいい企業もあるのではないかということです。これは重要な示唆を含んでいます。
絹村 企業ごとの製品や事業環境、カルチャーなどに応じて、移行の道のりは異なっていいということですね。
ムーア 日本の素晴らしい伝統の一つは、CEOから現場に至るまで、誰もが顧客訪問をとても大切にしていることだと思います。そのよき伝統を受け継ぎ、海外にも広げていけば、世界中でカスタマーサクセスを実現するうえで、大きな原動力になるはずです。
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