カーボンオフセット市場の機能不全
人間の活動によって排出される温室効果ガス(GHG)は、ほとんどが次の3つのどれかによって生じる。発電のために化石燃料を燃やすこと、発電以外で産業界が行う化学的な工程、そして農業だ。
“クリーン”エネルギーの技術は進歩しているとはいえ、まだ世界は化石燃料に大きく依存している。また、いまの農業のやり方や産業界の化学工程を抜きにしてこの社会を維持していく現実的な道は見えておらず、農業と産業に起因するGHGは現在の排出量の25%超を占めている。したがって、気候変動へのまともな戦略を考えるなら、そこには必ず「GHGの除去方法」が含まれていなければならない。
光合成などの自然現象、または炭素鉱物化などのテクノロジーにより、大気に含まれるGHGを分離・固定することは可能だ。「ネットゼロ」(GHG排出量が正味ゼロ)を目標に掲げながらも、みずから排出量を減らす手段をあまり持たない民間企業や非営利団体、政府機関などは、効果的な炭素隔離の手段・技術を持つ組織と契約し、分離・固定されたGHGを彼らから大量に買いつける必要がある。こうした取引は「カーボンオフセット」(炭素相殺)として知られているものだ。