上林 本日のテーマである人的資本経営の高度化を進めるに当たって、坪井さんが特に重視されているポイントは何ですか。

坪井 一つは、DE&I(多様性、公平性、包摂性)です。従業員一人ひとりが内なる多様性を発揮できる環境を整えるとともに、組織の中の多様な人財が互いを尊重し合って、それぞれの可能性を存分に発揮できるようにしていくこと。それが、イノベーションの推進力になります。

 もう一つは、人的資本経営のストーリーです。人的資本経営にはキャリア形成や組織風土づくりだけでなく、健康経営や人権尊重などさまざまな要素が含まれます。その一つひとつが最終的にキリンらしいユニークな価値創造にどうつながっていくか、そのストーリーが大事です。

 それが、人的資本の開示にそのままつながります。どういうストーリーで、どんな指標を定量的に測って、PDCAを回していくのか。それを開示して、投資家をはじめとするステークホルダーと対話していくことが重要だと思います。

上林 ご承知の通り2023年3月期から有価証券報告書で人的資本に関する情報開示が義務化されましたが、単に情報を並べるだけでなく、おっしゃるように価値創造につながるストーリーを組み立て、それをステークホルダーとの対話できちんと語り、センスメイキングしていくことが本来の趣旨です。

人は入れ替わってもキリンらしいカルチャーを残す

上林 人的資本経営の高度化に向けた今後の課題としては、何が挙げられますか。

坪井 最終的には企業カルチャーだと思っています。人が入れ替わっても、カルチャーが連綿と受け継がれれば、企業は生き残っていくはずです。人の細胞も日々入れ替わっていますが、古い細胞のDNAが新しい細胞にコピーされて、生命は維持されています。そのDNAに当たるのがカルチャーで、キリンらしいチャレンジ精神やどんな場面でも創意工夫するといったカルチャーを受け継いでいけば、進化しながら生き残っていけると思います。

上林 そのためにCHROとしては何に力を入れますか。

坪井 やはり従業員との対話ですね。ディスクローズ(情報開示)は一方通行で、コミュニケーションは双方向という違いがあると思っているのですが、対話によって受けるフィードバックは、厳しい意見も含めて、会社が進化していくためのギフトだと受け止めています。

 それは投資家に対しても同じことで、ディスクローズして終わりではなく、投資家目線でフィードバックをもらうことで足りないものは何かがわかったり、新たな気づきを得られたりします。進化には欠かせないプロセスだと思いますね。まだまだ端緒についたところですが。

古澤 キリンらしい価値創造ストーリーやカルチャーを大事にしながら、ステークホルダーと対話し、フィードバックを進化の糧にしていく。そういったところに、マーケターである強みを、CHROの立場でアウフヘーベンされていると感じました。キリングループが目指す専門性と多様性の両利き人財を、坪井さんご自身が体現されている気がします。

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