雇用の増加に対してノウハウの蓄積が足りない

調査結果から浮き彫りになったのは、精神障害者の雇用増加に対して、企業の雇用ノウハウの蓄積が追いつかない実態である。精神障害者の「雇用ノウハウは蓄積途上の段階にある」「雇用経験に乏しく手探りの状態だ」と回答した企業は合わせて57.0%で、身体障害者や知的障害者の場合と比べると、5.6~10.2%も上回り、精神障害者の雇用ノウハウの蓄積状況は芳しくない。
金本氏は、「精神障害者の特性は、他の障害者と大きく異なるので、過去に蓄積した雇用ノウハウを活かしにくいという悩みを抱える企業が多いようです。義務化に対応して雇用を優先したいが、受け入れ準備が追いついていない実情がうかがえます」と語る。
今回の調査では、雇用された精神障害者へのヒアリングやアンケート調査も実施。見えてきたのは、与えられた仕事に対する「やりがい」への不満や、「キャリア形成」に対する不安だ。
「『障害者枠』で採用されると、単純な仕事ばかりを任されるケースが多く、『やりがいを感じられない』『もっと重要な仕事がしたい』という不満が高まるようです」と金本氏は説明する。
精神障害者の中には、以前は健康で仕事もバリバリこなしていたのに、鬱やストレスなどが原因で発症してしまった人もいる。
「障害に配慮してもらいながらも、どれだけ自分の能力を認めてもらい、仕事を任せてもらえるのか。それが叶わずに不満を抱える人もいました。逆に叶った人はとても満足していたのが印象的でした」
実際、今回の調査でも「障害者には成果発揮を求めない」と答えた企業が55.3%と半数以上を占めている。
金本氏は、「一般に精神障害者の定着率は他の障害者に比べると低く、せっかく障害者枠で採用しても1年間で4割程度が離職してしまうというデータもあります。労働力不足が深刻化する中、障害や疾病、育児や介護など多様な制約のある就業者が活躍できる組織をつくることは、企業利益にもつながります。そのためには、精神障害者にも働きがいや成長機会を感じてもらえるような努力が企業に求められるのではないでしょうか」と提言する。