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理想主義と現実主義のバランスを正しく取る重要性
パーパス主導の組織になるためには、多くのことが要求される。その感覚は、けっして到達することのできない地平線を目指すのと似ている時がある。野心的なパーパスを抱くと、何をやってもまだ足りないと感じられる。その一方で、ハードルを下げたり、パーパスの定義付けを怠ったりすると、どのような努力も価値がないように感じられる。
コンサルティング大手プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の2019年の調査によると、会社のパーパスとの間につながりを感じると答えた従業員はわずか28%で、純粋にパーパス主導の組織で働いていると感じる従業員はさらに少なかった。組織にパーパスが存在しないという感覚は、やる気の低下や、目先のことだけ考える傾向、危険な道に少しずつはまりこむ傾向、惰性など、さまざまな問題につながるおそれがある。さらにほとんどの企業は、パーパスの示し方に重大な欠陥がある。それは、会社の現在の状態に関する当たり障りのない説明であったり、高尚だが会社が実際にやっていることとつながりの乏しい、具体性がないコミットメントだったりする。
パーパスのパワーを解き放ち、それを使ってビジネスを前進させるためには、リーダーが理想主義と現実主義のバランスを正しく取る必要がある。そのためにはまずパーパスを定義しなければならないが、定義した後も、日々の意思決定や戦略の実行、そして全員の結束した前進でも反映される必要がある。パーパス主導型のチームを率いるためには、4つの重要な問いを自分に投げかける必要がある。
現在の会社でパーパスはどのように表現されているか
パーパスとは大きなアイデアであり、力強く表現され、100%の確信を持って掲げられる。そしてチームから集中的で献身的なアクションを引き出す。優れたパーパスステートメントを作成するためには、リーダーによる最高レベルの戦略的思考が求められる。ここでは、印象に残るパーパスステートメントを作成する3つのコツを紹介しよう。
1. 慎重に作成する。どのような言葉を使うかによって、重要な違いが生まれる。稚拙な文章で、曖昧で、記憶に残らないパーパスステートメントでは、あなたやチームがよりよい意思決定をする助けにならないし、従業員が職場で切望するつながりの感覚を取り戻す助けにもならない。
2. 圧倒的に明快でなければならない。シンプルでありながら、戦略的なニュアンスをとらえている必要がある。パーパスステートメントは、活動する領域と活動しない領域、あなたの会社をユニークなものにしている要因、誰の役に立つのか、長期的にどのようなインパクトをもたらすのかを説明する。
3. 数十年は有効であるべきである。あなたの会社とチームがパーパスによって動かされるようになるためには、パーパスステートメントが、会社の現在のようなわかり切った内容であってはいけない。会社が目指すもの、変革やイノベーションを要請する行動の呼びかけでなくてはならない。
世界的なケミカル企業で工業製品やバイオサイド製品を提供するアークサーダは、当初、「日常生活をより安全で、清潔で、健康的で、環境に優しく」というパーパスステートメントを掲げていた。事実上、どの会社にも当てはまるような内容だ。大きな幅を持たせた表現だが、広範すぎて、会社というより業界の説明をしているようだった。
筆者らが手伝って作成されたアークサダの新しいパーパスステートメントは、「よりよいサイエンスで、世界一やっかいな保全の問題を解決する」だ。これは理想主義と現実主義のバランスを完璧に示している。パーパスは野心的で幅広いが、事業内容を具体的に示している。また、「よりよいサイエンス」という表現は、事業内容に関して、いくつかのことを要求している。すなわち、アークサダがよりよいサイエンスを実践することでみずからを差別化すること、競合他社よりも技術的に優れていること、そして常に新しい科学進歩を追い求めることだ。
「よりよい」という表現は、アークサーダが環境インパクトを減らすためにケミカル業界でリーダーシップを果たすことも要求する。最も重要なことに、「世界一やっかいな保全という課題」に言及することで、アークサーダは自社の事業をあらためて定義している。このパーパスステートメントは、アークサーダの専門性が最大のインパクトを与えられると同時に、難題を解決することでさらに差をつけられる幅広いチャンスを示したのだ。