-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
将来予測に基づく資本コスト算定アプローチ
経営陣が投資案件を評価する時、それが工場の建設、新市場の開拓、あるいは企業買収であろうと、投資額に対して、将来どれだけのキャッシュフローが期待できるかを検討する。適正に比較できるように、彼らはこうした将来キャッシュフローに割引率を乗じてNPV(正味現在価値)を求める。その割引率──株主資本コスト──を推計することは、この作業では欠かせない。どのような割引率を選択するかによって、プロジェクトや企業価値の評価に多大な影響が出てくる。
たとえば、割引キャッシュフロー(DCF)を使って、イギリスに本拠を置く超大手携帯電話サービス会社であるボーダフォンの最近のバリュエーション(企業価値評価)を行ったとしよう。すると、割引率を12%から11.6%にわずかに変えただけで、同社の推定価値は15%、すなわち134億ポンドも上昇する。
当然ながら、評価対象となっているプロジェクトや企業のすべてが、割引率に対してこれほど感応度が高いわけではない。だが、常に高めの株主資本コストを使ってプロジェクトを評価している企業は、その結果、貴重なチャンスを見逃して、ライバル企業に餌をさらわれるような事態に陥るだろう。
逆に割引率を低く設定しすぎると、収益性が損なわれ、株主価値を破壊するようなプロジェクトに経営資源を傾ける羽目になることは、ほぼ間違いないだろう。
また、社内情勢や市場が変化したにもかかわらず、割引率を固定し、長期間にわたって財務上のベンチマークとして用いる傾向が見られる。これも誤った評価を下す可能性を増大させるばかりである。
株主資本コスト、もしくは投資家の立場から見れば「株主が要求する利益率」を推定するために使われている標準的な公式は「資本資産評価モデル」(CAPM:capital asset pricing model)である。基本的にほぼ40年間変わっていないこの公式では、株主資本コストは、リスク・フリー・レート(信用リスクのない資産の収益率:通常は10年国債の利回りが利用される)と、その投資案件におけるリスクを反映させたプレミアム(追加的な期待リターン)の和に等しい。
このプレミアムは、過去のリスク・フリー・レートと株式市場全体(S&P500のような指数で示される)の収益率の差に、その株式のボラティリティ(変動率)と、過去その株価がどの程度市場の動きに伴って上昇もしくは下落したかを反映した調整率を掛けたものである。