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期待が部下を動かす
イギリスの劇作家ジョージ・バーナード・ショウの戯曲『ピグマリオン[注1]』のなかで、イライザ・ドゥーリトルはこう言う。
「おわかりでしょう。(ドレスの着こなしや話し方など)習ったり、覚えたりできることは別として、本当のところ、レディと花売り娘との違いは、どう振る舞うかではなく、どう扱われるかにあるんです。ヒギンズ先生にとっては、あたしはいつまで経っても花売り娘なんです。先生はいつだってあたしを花売り娘として扱っていらっしゃるし、これからもずっとそのおつもりなんです。しかし、あなたの前では、あたしはレディでいられるんです。なぜなら、いつもレディとして扱ってくださるし、これからもそうでしょうから[注2]」
マネジャーの頭のなかにあるのは、どんな時でも部下の扱いがうまく、部下に優れた成果を上げさせることである。ところが、たいていのマネジャーは、ヒギンズ教授同様、部下の扱い方がまずいため、部下に実力以下の成果しか上げさせられない。
マネジャーがどれくらい部下に期待しているのかによって、部下の扱い方は微妙に変化する。マネジャーの期待が大きければ、その生産性が向上する可能性も高い。逆に期待が小さいと、生産性も低くなりがちである。まるで何らかの法則が働いているかのように、マネジャーの期待に合わせて部下の成績は上下する。
一人の人間の期待が他人の行動に及ぼす影響力の重要性は、かなり以前から医師や行動科学者によって、また最近では教師によって注目されてきた。しかし、マネジャーの期待が、個人や集団の業績を向上させるうえで決定的な意味を持っていることは、これまであまり広く理解されていなかった。
私はおびただしい数の事例をひも解きながら、この現象について実証的に論じてきた。この事例群は過去10年間にわたって産業界のために準備してきたものでもある。そして、他の科学的研究が積み重ねられた結果、次のような事実が明らかになってきた。
・マネジャーが部下に何を期待し、またどのように扱うかによって、部下の業績と将来の昇進がほとんど決まってしまう。