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リーダーシップは状況に適応させるもの
1986年2月10日月曜日、私はブルークロス・オブ・カリフォルニアのCEOに就任した。その歓迎パーティでは、1.5メートルほどもある彫刻が贈呈された。えも言われぬピンクのクルマエビが、青い氷からくり抜かれた十字架に飾られていた。虚飾の美は感じられたが、私の目には最大の浪費の象徴と映った。調達先を尋ねると、会社の菓子職人を紹介された。そして、私の初仕事は彼の解雇となった。
当時、全国77拠点のうち、カリフォルニアの業績は最悪の状態にあった。年間で1億6500万ドルの営業損失を計上していた。破産の瀬戸際にある、屋台骨が揺らいだ組織に氷の彫刻はまったく無用だった。
この菓子職人を解雇してから16年が過ぎた。この間、ブルークロス・オブ・カリフォルニアは、失策にあえぐ官僚組織から、たくましい公開企業へと変貌を遂げた。社名も、ウエルポイント・ヘルス・ネットワークス(以下ウエルポイント)と改められ、アメリカ最大の医療保険会社の一つとなったのである。
現在、全米4500万の人々を対象に、調剤、定期歯科検診、精神カウンセリング、HMO(健康維持組織:保険会社が指定するネットワーク内で、医療を定額前払いで提供する保険サービス)やPPO(医療提供者集団:割増料金を支払うことで、ネットワーク外での診療を可能とする保険サービス)といったサービスを提供している。87年には20億ドルだった売上げは、現在160億ドルに拡大し、89年以来、継続して黒字を達成している。
企業変革に伴って、CEOとしての私の役割も変わった。最初に採用したトップダウンの独裁型リーダーシップは、干渉しない「参加型リーダーシップ」へと変わった。直接管理するのではなく、社員が行動を起こすように動機づけるためである。
そして最近になって、また別のスタイルへと移行した。参加型から離れて、会社の存在意義を以前よりも広い視点から代表する「改革型リーダーシップ」となったのである。消費者や政治家、他の財界リーダーとの折衝を通じて、業界や社会に根本的な変革をもたらす役割を担っている。
私は30年にわたるキャリアを通じて、リーダーシップには、トップによる「圧制」にとどまらない何かがあると考えるようになった。その時々の個人や組織、業界や世界のニーズや状況に応じて、リーダーに課せられる役割も変わったのである。換言すれば、リーダーシップとは、特定の状態ではなく、道程と見るべきなのだ。