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ICタグの利便性
オーストラリアのシドニーでナイトライフといえば、スター・シティ・カジノのことだ。ネオンで輝くカジノ、劇場やナイト・クラブ、352の客室、巨大マンション棟、健康センターや商店街、スポーツ・ジムなどの施設が、一日中休むことなく稼働している。
7つのフットボール競技場が入るような巨大施設で、数千人の社員が働いている。彼らは、さまざまな職務に応じて、その職場の輝きに引けを取らない制服に身を包む。陶酔感の漂うその裏で、8万着の制服は、毎回クリーニングに出され、回収され、次のシフトに備えて、正しい場所に保管される。
社内で最も退屈な作業を担うこの制服部門が、うまく機能している。光り輝くある技術のおかげである。通称ICタグと呼ばれ、それぞれの制服に縫いつけられる非接触型データ・キャリア(radio frequency identification: RFID)チップが、制服管理システムのなかで非常に重要な役割を果たしている。
チップは、繰り返しの洗濯や着用に耐える強さがあり、チップによりそれぞれの制服が識別できるようになる。無線の読み取り機(リーダー)が施設内の要所に置かれ、個々の制服を追跡する。もし制服が間違った場所に迷い込んでしまっても、発見機が、何の制服でどの部門のもので、いつまでにその部門に納品されなければならないのかを捕捉する。
導入結果はそのままシステムの優秀性を物語っている。1997年の導入以来、制服の紛失やクリーニング代金の精算ミスがほとんどなくなり、大きな費用削減効果が出ている。カジノの客がシャツをなくすことはいまでもあるが、社員がなくすということはなくなった。
これが、O2O(object-to-object: モノ対モノ)コミュニケーションである。未来のSF小説の話ではない。実は、非常に単純な追跡・認証技術が進化して出来たものだ。デパートで長年、衣料品につけられていたディスク型の万引防止装置のようなものである。その装置が、より小さく、賢く、耐久性に富み、安くなっていったのだ。
結果として、O2Oコミュニケーションが、あらゆる場面で利用できるようになり、人手をまったく介さない「サイレント・コマース」が可能となる。さまざまな企業で急速にこの技術の採用が進み、費用の削減や、セキュリティの向上、顧客支援に役立っている(囲み「技術の概要」が、今日の典型的なタグ・システムを解説している)。