急成長する新興業界

 ソーシャルメディアのインフルエンサー業界は過去20年間で、何もないところから世界的な勢力として広く浸透するようになり、情報や文化を着想し、つくり出し、マーケティングし、共有する方法が全面的に再編されてきた。先行したのはファッション、美容、旅行などの商業部門だが、非営利団体、行政サービス、政治運動も次第に加わり、インフルエンサーマーケティングという信頼の置けそうな媒体を役立てたいと思っている。

 ほとんどの場合、インフルエンサーマーケティングはうまく機能してきた。インフルエンサーマーケティング・ハブによると、同業界の世界市場規模は2023年末時点で約210億ドルである。ケラー・アドバイザリー・グループとアドビの調査[注1]では、コンテンツクリエイターを自認する人が米国で2700万人、世界で3億人に上った。ハブスポット[注2]によると、インフルエンサーマーケティングをすでに試したことのあるマーケターの約88%が、そのための予算を維持もしくは増額する予定だという。

 今日では、インフルエンサーが形成する世界の現実と戦わずにいられる組織や消費者がいるとは想像しづらい。ニールセンやロイターなどの調査機関は驚くべき現実を明らかにしている。人々はインフルエンサーに信頼を寄せ、ソーシャルメディア利用者はジャーナリストよりもインフルエンサー経由でニュースを知ることが多いのだ。また、人々は社会問題をうまく解決できる立場にあるのは政府よりもブランド(企業)だと考えており、若者の間でインフルエンサーはなりたい職業の第1位になっている。