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成功の要因は何か
なぜある経営が成功し、他が失敗するのかは、容易に示すことはできない。成否の原因は根深く複雑で、運も関わってくる。とはいえこれまでの経験から私は、経営者にとってはモチベーションと機会が重要だと強く信じている。モチベーションはインセンティブによって引き出され、機会は分権化を通してもたらされる面が強い。
しかしそれだけではない。これまで繰り返し述べてきたように、優れた経営は集権化と分権化をうまくバランスさせ、分権化を進めながらも全体の足並みを揃え続ける。
こうした考え方の下で、矛盾するさまざまな要素を調和させると、稀に見るような成果を上げられる。分権化を進めると積極性、責任、各人の能力、事実に基づく判断、柔軟性――すなわち、組織が新しい状況に対応するうえで欠かせない資質を引き出せる。全体の調和を図ると、効率性と経済性を高められる。
とはいえ、事業部制を取ってなおかつ全体を調和させるのは、容易なことではない。この点はあえて説明するまでもなく、明らかだろう。多彩な責任を整理して分け与えるための、はっきりしたルールがあるわけではない。全社と事業部のバランスは、判断の対象が何か、どのような時代環境か、これまでどのような経緯を経てきたか、経営者がどのような性格と技能を持っているかによって異なってくる。
事業部制組織における自由と統制
ゼネラルモーターズ(以下GM)では、事業部と全体をバランスさせるための仕組み――すなわち事業部制――は、実際の経営課題に対応するなかから生まれてきた。すでに紹介したとおり、事業部制の萌芽が現れた40年前には、間違いなく、各事業部に強い権限を与えて、担当事業についての主導権を握ってもらうのが適切だった。
だが1920年から21年の出来事は、それ以前に比べて大きな権限を事業部に振るうべきだと、私たちに教えてくれた。本社が適切なコントロールを及ぼさずにいたら、事業部は無策に陥り、本社上層部が定めた方針を守らなくなり、全社に深刻なマイナスが及んだのである。
その間、本社経営陣は望ましい方針を立てられずにいた。事業部から適切なデータが適切なタイミングで提出されなかったからである。後に経営データが定期的に本社に提出される仕組みを設けて、ようやく本当の意味で全社の調整が図れるようになった。
それでもまだ、事業部の裁量と本社からのコントロールをどうバランスさせればよいのか、答えが見つかったわけではない。もとより、一度決めればそれが常に有効だというわけでもない。状況が変われば、適切なバランスも変わり、望ましい組織を生み出していく仕事は、絶えることなく続いていくのである。
一時期は、自動車など製品のスタイリングを決めるのは事業部の権限とされたが、以後現在に至るまで、主要製品のスタイリング方針を定めるのは、本社スタイリング・スタッフの仕事となっている。その理由は一つには、スタイリング全体の調和を取ることで、経済的な効果が見込めることだ。
加えて、これまでの経験から、優れた才能を全社で生かすことで、業務全体の質が高まることがわかったのである。今日では製品のスタイルを決めるのは、管轄の事業部、スタイリング・スタッフ、本社経営陣の連帯責任とされている。
以上のように、本社と事業部の権限を絶えず調整できたのは、事業部制があり、従来の経験や状況の変化によって、業績を向上させる機会が生まれた時には必ず対応に乗り出したからである。私がCEOを務めていた間は、本社が事業部に強権を発動することはなかった。今日では、当時とは状況が変わり、新しいより複雑な課題が生まれているため、調整の必要性は高まっているけれども、基本的な考え方は私の頃と同じだと思う。
ラインとスタッフ
GMは、「ラインとスタッフ」を教科書どおりに解釈しているわけではない。私たちにとって重要なのは、「(スタッフ組織を含む)本社と事業部」の区別なのだ。おおまかに述べれば、スタッフ組織の人材――スペシャリストが主体である――は、ラインの権限を持たないが、規定の方針に関しては、事業部とじかに相談・調整することもある。
本社経営陣の使命は、本社、事業部ではそれぞれ、どのような意思決定を効率的、効果的に行えるかを見極めることだ。その際には、洗練された良識ある結論を得られるように、スタッフ部門の力を大いに借りる。実際、本社経営陣による重要な判断の多くは、まずはポリシー・グループに属するスタッフとの共同で案を練り、次いで本社委員会での検討を経て承認される。一例を挙げれば、ディーゼル機関車の製造に参入するという決定は、スタッフ部門による製品研究を土台としている面が大きい。
スタッフ部門のなかには、法務部門のように、対応する組織が事業部にないものもある。あるいはまた、エンジニアリング、製造、流通など、事業部の複数の業務と関連が深いものもある。とはいえ、本社スタッフと事業部の間には、大きな相違がある。本社スタッフは事業部よりも長期的で、応用範囲の広い課題を扱うのである。