シニカルな人は収入が少なく、出世もしない
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サマリー:マキャベリが打ち出したシニカルな思想は、権力や成功を追求する方法として広く世の中に影響を与えてきた。しかし、近年の行動科学の研究によると、実際にはシニシズムがキャリアや収入、仕事の満足度に悪影響を与え... もっと見るるという。信頼や協力を重視する姿勢こそが成功のカギである一方、シニシズムは孤立を招き、職場の創造性や成果を損なうのだ。ただ、筆者の研究によると、シニシズムは修正可能で、適切な環境と習慣により克服できるという。本稿では、組織やリーダーがシニシズムを抑制し、チームに協力的な優位性をもたらすために何から始めればよいかを解説する。 閉じる

シニカルな人の限界

 500年前、ニッコロ・マキャベリは『君主論』の中で、権力を拡大しようとする指導者たちに助言を与えた。「敬虔で、忠実で、人道的で、誠実で、宗教的であるように見せることは有益であり、実際にそうであることも有益であろう。ただし、必要とあらば正反対の行動を取る意思がある場合に限る」

 言い換えれば、自分の価値観に固執しないということだ。誰もそのようなことをしていないのだから。

 何世紀も経ったいまでも、この一節はシニカルな世界観を完璧に言い表している。シニカルな人は、人間は基本的に利己的だと考えている。これはまた、人と人との関わり合いは、その核心において冷酷なダーウィン的生存競争であり、成功するためには、周囲の人々を追い越し、乗り越え、あるいは踏みつける必要があることを意味する。

 多くの人は、この冷ややかな論理に従っている。親の半数以上は、成功するために自分の子どもは世界を過酷で危険なものと捉えるべきだと考えている。伝説的な経営学の教授であるスマントラ・ゴシャールによれば、MBAの学生は「企業は競争相手だけでなく、サプライヤー、従業員、規制当局とも競う必要がある」と教えられる。筆者が仕事をしているシリコンバレーでは、スティーブ・ジョブズのような優秀だが有害なリーダーが称賛され、むやみに模倣される。

 マキャベリの助言に従い、シニカルな人は人間関係と信念を犠牲にして勝利しようとする。だが、それでは逆に敗北すると、研究は示している。行動科学の新たな研究から、キャリアの過程におけるシニカルな思考は成功を妨げることが明らかになっている。世界は競争で成り立っていると捉えることで自分の子どもは成功できると、親は考えるかもしれない。だが実際には、そうしたマインドセットを持つ人は収入が少なく、仕事の満足度も低い。

 別の研究では、長期にわたって人々を追跡調査した。ある時点で調査対象者のシニシズム(冷笑主義)を調べ、数年後に職業上の成果を測定したのである。そこにより明確に表れているのは、シニカルな人にとってさらに悪い結果である。シニカルな人の10年間の給与の伸び率は、シニカルでない人の3分の1程度に留まり、指導的立場に昇進する可能性も低かったのである。

 なぜか。シニカルな人は他者を信頼する人に比べて、権力に飢えており、さまざまな方法で権力を追い求める。他人は機会があれば自分を利用すると確信しているため、先手を打って他人を操ろうとする。マキャベリは誇りに思うだろう。彼は、愛されるよりも恐れられることを好み、他者を支配するようリーダーに促している。調査によると、同僚を威圧するとか上司にへつらうといった支配的な行動は、実際に従業員の力を高める傾向がある。しかし、同僚と惜しみなく分かち合うような共同行動も、同じくらい効果的である。研究によると、競争心を持つシニカルで不愉快な人々は、出世するために支配的な戦略しか使わない。これでは孤立し、結局は成功にみずからふたをしてしまうことになる。

 端的に言えば、シニカルな人は勝負の仕方を間違えている。成功とは、勝者総取りのバトルロワイヤルではない。多くの場合、人は信頼できる人脈や同盟関係を築くことで勝利する。そして、個人が強引にトップの座を手に入れた場合、チームがその代償を払うことが多い。心理学者が最近、NBA(全米バスケットボール協会)選手の投稿に含まれるナルシシズムのレベルを分析したところ、ナルシシズムのレベルが高いチームほど勝利数が少ないことがわかった。なぜなら、最高のレベルで競争するためには、チームメート同士で互いを出し抜こうとするのをやめなければならないからだ。もしナルシシストの選手がボールを独占すれば、チームは「協力的な優位性」を失うことになる。NBAチャンピオンのビル・ブラッドリーはこう言っている。「グループの成功は個人の成功を保証するが、その逆はない」