戦略はだれもがわかるように言語化されていない

「自社の戦略について、35語以内で説明せよ」と言われて、あなたは答えられるだろうか。また、その答えは同僚たちと一致するだろうか。

 我々が知る限り、この単純な質問に、はっきり「イエス」と答えられる経営幹部はそういない。そして「イエス」と答えられるビジネス・リーダーが働いているのは、たいてい業界の成功企業である。

 セントルイスに本社を置く証券会社、エドワード・ジョーンズもその一つである。本稿執筆者の一人(コリス)は10年以上にわたり、この全米第4位の証券会社とつき合ってきた。その間、同社は市場シェアを20年前の4倍に拡大し、また市場の好不調にかかわらず、ライバルよりも高いROIを維持してきた。そして、いまや『フォーチュン』誌の「最も働きがいのある企業」の常連になっている。

 では、エドワード・ジョーンズの社員たちに「戦略について簡潔に述べてみてください」と問い質したら、どうなるだろうか。おそらく3万7000人のほぼ全員が、きちんと答えることだろう。

 同社の目標を説明すると、「信頼できるファイナンシャル・アドバイザーに、フェース・トゥ・フェースで気軽に相談し、投資判断を任せたいと思っている保守的な個人投資家のニーズに焦点を合わせ、一人のファイナンシャル・アドバイザーが支店を運営する体制を全国展開し、そのために、現在約1万人いるファイナンシャル・アドバイザーの数を2012年までに1万7000人に増やすこと」である。

 一方、ビジネス・リーダーたちがその戦略を具体的かつ単純明快に表現できない企業を見ると、その多くが戦略の実行に失敗し、ひどい場合には、戦略すらも存在していない。実際、企業戦略のみならず、事業戦略がはっきりしていないため、経営層から現場に至るまで、いらだちを抱えている企業は驚くほど多い。そのような企業でよく聞かれるのは、次のような不満である。

「このイニシアティブを立ち上げるために、何カ月も前から取り組んできたのに、いま頃になって『戦略と違う』という理由から中止させられた」

「経営陣の意見がまちまちで、このチャンスに食いつくべきかどうかわからない」