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*E負債の会計システムの全貌を知るには、以下の論文を参照してほしい。
・「気候変動の会計学」DHBR 2022年4月号。
"Accounting for Climate Change," by Robert S. Kaplan and Karthik Ramanna (HBR, November-December 2021).
・「続・気候変動の会計学」DHBR 2023年11月号。
"Accounting for Carbon Offsets," by Robert S. Kaplan, Karthik Ramanna, and Marc Roston (HBR, July-August 2023).
川下顧客の排出に
企業は責任を負うべきか
気候変動問題への取り組みとしてみずからのカーボンフットプリントを減らそうとする企業は、一つの難題に直面する。自社の業務運営や製品設計、原料調達により、サプライチェーン全体の炭素排出量がどのような影響を受けるのか正しく計測するのが難しい、という問題だ。
まさにこの問題を解決するため、筆者らは前回の論文(「続・気候変動の会計学」)で、かっちりした炭素会計の方法論(E負債の会計システム)を紹介した。
この会計システムを使えば、企業は自社(さらにはサプライチェーン全体)の炭素排出量を示すE帳簿(環境帳簿、またはエコ台帳)を作成できる。これは財務諸表と同じように正確で、他社との比較も可能で、会計監査の対象にもなり、素早く作成して適時に公開できる。
このE負債という会計システムが自社や顧客、その他のステークホルダーにとって大切なツールになる、と気づく企業は日々増えている。みずからのサプライチェーンの排出量を減らすことで地球規模の排出削減に向けて着実に貢献している、という事実をしっかり確認できるからだ。
しかし、企業の排出開示のルールとして現在最も広く使われている「GHGプロトコル」(温室効果ガス排出量の算定と開示についての国際基準)のスコープ3では、企業が排出量を開示する際には自社の「川下顧客」──その企業の製品を購入して使用する人や企業──による排出量も開示するよう求めている。これは、自社の企業活動による排出だけでなく、自社製品を買った顧客による将来の排出や、顧客の顧客による将来の排出など、バリューチェーンの川下でいずれ生じる排出についても企業は責任を負うべきだ、とする一部の気候変動問題の論客が訴える理念を反映したものだ。
一見すると、この主張は理不尽に思える。なぜなら、大規模で複雑なサプライチェーンの出発点に近いところに位置する企業は、はるか川下にいる顧客の大半について、いったいどこの誰なのかさえも知らないだろうし、ましてやその顧客が生み出す排出量など知る術もないからだ。
だが、「川下顧客の排出について企業がもっと責任を負うべきだ」という主張は一つの重要な問題を提起している。以下、本稿ではその問題を考察する。