企業の長期的成長には「多角化」が不可欠

 赤の女王は言った。「ここではね、同じ場所にとどまるだけでも、全力で走らなくちゃいけないのさ。どこかよそへ行くつもりなら、せめてその倍の速さで走らないといけないんだよ」[注1]

 アメリカ経済にも、これと同じことがいえる。企業が現在の地位を永続させるには、絶えざる成長と不断の改革が不可欠である。またその地位をさらに上げるには、成長と変革のスピードを少なくとも「2倍に」しなければならない。

 1909年から48年におけるアメリカの大企業ベスト100社の変遷に関する調査によると、既存製品や伝統的手法に頼って順位を上げた企業はほとんどないという。

 そして本調査は、「イノベーション競争についてゆけなければ、現在トップを走っている企業がその地位を維持できる保証はどこにもない」と締めくくっている[注2]

 企業の成長戦略は基本的に4つある。「市場浸透」「市場開拓」「製品開発」、そして「多角化」である。

 ただし、4番目の多角化を成長戦略として選択する場合、長期計画の目標から外れないように、これら4つの戦略を比較し、優劣をはっきりさせたうえで、これらの組み合わせを一つひとつ検討することが必要になる。

 多角化は成長に欠かせない戦略だが、特有の難しさがある。これまでつくったことのない製品を開発したり、経験したことのない市場に参入したりするには、他の3つの戦略とは異なり、過去の経験則や流儀を忘れなければならないからだ。

 したがって本稿の目的は、いかに企業全体を成長させるかという見地から多角化を位置づけること、なぜ多角化が他の3つの戦略よりも望ましいのか、その理由を明らかにすること、そして多角化の目標と企業の成長目標がどのような関係にあるのかを描き出すことである。