権力をめぐる3つの疑問

 アメリカ人は一般に、権力(パワー)とその力学(ダイナミクス)を快く思わない。権力をほしがり、やっきになっている人を見ると、その動機を怪訝に思う。「その人は自分を操ろうと考えているのではないか」と不安を抱くこともある。

 組織内の権力争いは避けて通れないと考えている人でも、いざ自分自身が権力を行使しなければならない場合、多少なりとも後ろめたさを感じることが多い。つまり、アメリカ人は権力に否定的なのだ。

 このような態度や考え方はいまに始まったものではなく、アメリカ建国にまでさかのぼることができる。法学者のチャールズ A. ライクは、ベストセラー『緑色革命』[注1]で、さまざまな人々の考え方を描き、こう述べている。「権力の乱用が悪いのではなく、権力が存在することが悪なのである」

 権力というものはこのように見なされているため、研究や討論においてまっとうなテーマとして扱われてこなかった。マネジメントの世界ですら、そうである。疑われるならば、経営学の教科書やマネジメント誌、シニア・マネジャー向け研修のパンフレットなどに目を通してみられるとよかろう。「権力」という言葉はまず出てこない。

 権力とマネジメントをめぐっては、以前から混乱と誤解が数多く生じていたが、このように権力への関心が低いと、混乱と誤解はますます大きくなり、しかもやっかいなものになっていく。

 なぜなら、複雑かつ大規模な現代組織では、大勢のマネジャーが存在しており、彼ら彼女らが効率的に業務を遂行するには、一人ひとりにしかるべき権力が与えられ、これを効果的に行使できなければならないからである。

 私の見るところ、マネジャー、特に高学歴の若手マネジャーのなかには、権力に秘められた真の力を十分発揮できていない者が多い。それは、与えられた権力を行使すると、どのような力学が働くのかを理解していないからだけでなく、必要な権力を取りつけ、効果的に行使するだけの才に乏しく、また十分養われていないからである。

 本稿では、次の3つの疑問に答えながら、権力とマネジメントをめぐる混乱と誤解を整理していきたい。