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CSRの新たなパラダイム
行政、社会活動家、マスメディアによって、企業活動の責任が厳しく問われる時代になった。無数の組織が、企業を社会的責任(CSR)の観点から評価し、そのランキングには十分な社会的影響力がある。その結果、CSRはどの国のビジネス・リーダーにとっても、なおざりにできない重要テーマになりつつある。
企業は、自社の活動が社会や地球環境に及ぼす悪影響を相当改善してきた。しかし、まだまだである。その理由は2つある。第1に、企業と社会を対立するものとしてとらえている。両者はそもそも相互依存関係にある。第2に、CSRは可もなく不可もない対応に終始している。そうではなく、各企業は自社の戦略に即したかたちで具体的に考えるべきである。
つまり、現在支配的なCSRの考え方は、あまりに部分的であり、事業や戦略とも無関係で、企業が社会に資するチャンスを限定している。むしろ、事業上の判断を下すのと同じフレームワークに基づいて、その社会的責任を果たすというように考えれば、CSRはコストでも制約でも、また慈善行為でもなく、ビジネスチャンスやイノベーション、そして競争優位につながる有意義な事業活動であることがわかるはずだ。
本稿では、企業と社会の関係に新たな視点を提示したい。すなわち、「企業の成功」と「公共の福祉」をゼロサムで考えないという視点である。本稿で示すフレームワークを用いれば、企業が社会に及ぼすであろう影響──それがプラスであれ、マイナスであれ──を特定し、どれに対処すべきかを判断し、そのための効果的な方法を考え出せる。
長期的に見れば、CSRは社会を大きく進歩させる源になる可能性が高い。言うまでもなく、企業内の資源や能力、判断力を、社会に資する活動に投じられるからである。
現在のCSRは本物か
CSRが注目されるようになってきたとはいえ、企業が率先して取り組んできたとはいえない。むしろ企業がみずからの責任外にあると見なしていた問題について、世論からの意外ともいえる反応から、初めて意識した企業も多い。
たとえば、ナイキは1990年代前半、強硬な不買運動の的となった。『ニューヨーク・タイムズ』紙をはじめ、各マスメディアが、インドネシアの下請け工場で学齢期に当たる少年が働かされているといっせいに報じたからだ。
また95年、ロイヤル・ダッチ・シェルが老朽化した石油掘削施設ブレント・スパーをそのまま北海に沈めようとしたところ、環境保護団体のグリーンピースから猛烈な抗議を受け、メディアも大々的に報道した。