-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
多国籍企業は「ボトム・オブ・ピラミッド」に向かう
2005年初め、我々は某大銀行の会長と面談し、貧困層向けにサービスを提供することは事業として成り立つのかどうか、意見を交わした。そこにCEOも同席していたが、その会長は、ぶっきらぼうに「我々は、(そのような事業で)利益を上げようなどとは思いません」と答えた。「1日に1ドルの収入もない人たちから金を儲けるなど、考えるのも忌まわしい」と続け、これにまつわる話題を持ち出してきた。
結局、これが思いがけなく、この朝のミーティングの中心テーマになった。ある発展途上国で貧しい子ども向けの初等教育支援プログラムが創設されたが、それを運営し、規模を拡大するために、この銀行は何をすべきかという話題になったのである。
普通ならば、大企業ではなく、非営利のNGO(非政府機関)が夜どおし考えるような問題に、一人の銀行家がこれほどまでに没頭していることに我々はやや意外だった。
このミーティングから1週間後、今度はインドの3つのNGOの代表者たちと一日を過ごした。これらのNGOは比較的小規模だが、それぞれインフラ整備と災害復興、薬草の栽培と加工、農村部の小企業の支援に特化して活動していた。また、自立支援のための貯蓄貸付グループをいくつか共同運営しており、約5万人の女性たちがここに参加していた。
これらのNGOは、某グローバル企業の経営陣数人を含むビジネス・アドバイザーと一緒に、これから立ち上げるべき事業の選択について我々にアドバイスを求めてきたのだった。すでに彼らは、金融サービスと保険、建設、消費財、医療サービスの各分野について、調査と市場化テストを終えていた。
終日の討議の末、NGO側は3つの事業を展開することを決定した。すなわち、一日の収入がおよそ50ドルの人たちを対象に、保険商品、食品雑貨、衛生施設を提供することにしたのだ。
これらのNGOは、この市場向けに商品を製造・販売するために、現地コミュニティの組織化に取り組んでおり、その熱意と周到な姿勢に我々は感銘を受けた。その姿は、まさしく優れた起業家そのものだった。
この2つのミーティングは、単なる一時的な役割逆転にとどまらないと我々は考えている。企業と市民団体は互いに歩み寄りながら、変化を遂げつつある。そして、この流れは不可逆であろう。