イノベーション活動をバリューチェーン化する

「うちはどうしてイノベーションがうまくいかないのか」。こう自問する大企業の経営者は少なくない。かたや、このような状況を打破するためのアドバイスにも事欠かない。

 いわく「もっとたくさんアイデアを出す」「コンセプトやパートナーを社外に求める」「これまでと異なる投資の意思決定プロセスを構築する」「革新的な新規事業を既存事業から守る」「アイデアを事業化させる能力を高める」等々──。

 しかし、このような助言はいずれも、新しい製品やサービス、新規事業を開発するに当たって、どの企業も必ず同じ障害に直面するという前提に立っている。現実には、イノベーションにまつわる課題は企業ごとに異なり、この事実を考慮することなく、これらの助言を取り入れるのは無駄であるばかりか、時には有害でさえある。

 ここで、イノベーションにまつわる課題に直面した2人のCEOの例について考えてみよう。

 2000年1月、スティーブ・ベネットが財務ソフトウエア〈クイッケン〉〈クイックブックス〉を開発するインテュイットのCEOに就任した時、同社には、主に社外からたくさんのアイデアが集められていたが、これらのアイデアを事業化する仕組みは未整備だった。

 ベネットは次のように述べている。「インテュイットは顧客から学ぶことに多くのエネルギーを費やしていましたが、最もインパクトが大きいアイデアはどれかを判断できずに苦しんでいました」

 ベネットはこの状況を改善するために、改良中のアイデアについて、事業化上の目的を具体化するように指示すると同時に、その目的を達成するに当たって、各担当者に結果責任を負わせることにした。

 インテュイットは現在、アイデアの開発だけでなく、事業化の能力も高くなっている。3年前に比べて、売上げが47%、利益が65%成長した背景には、このような努力も一役買っているのだ。