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再び運転資金の重要性が増している
運転資金はバブル期、おざなりにされがちだった。大量の現金が金融市場に出回っていたため、いかに現金を捻出するかについて頭を悩ませる必要がなかったからである。運転資金を確保することで、とりわけ売上げや利益を損なうおそれがある場合、この傾向は顕著であった。
しかし、いまや資本と信用は収縮し、顧客は財布のひもを締め、仕入先が支払いの遅れに厳しくなると、再び現金が市場を支配するようになった(囲み「運転資金を上手に管理し、手元流動性を増やす」を参照)。
運転資金を上手に管理し、手元流動性を増やす
昨今の厳しい時代にあって、企業は現金の確保に奔走している。幸いバブルが終わったことで、多くの企業が、まだいい加減とはいえ、運転資金を管理するようになり、おかげで現金がけっこうだぶついている。
運転資金を管理する際、次の6つの過ちの一部、もしくはすべてを犯してしまう企業が少なくない。
(1)最終損益に基づいて管理する。
(2)営業部門のボーナスは、成長にまつわる評価基準によって決まる。
(3)生産品質を過度に重視する。
(4)売掛金と買掛金の条件を同じに考える。
(5)流動比率や当座比率に基づいて管理する。
(6)ライバルのやり方をベンチマーキングする。
これらの過ちを正すだけでも、かなりの現金を確保できる。とはいえ、長期的には、財務諸表への責任を全社員に負わせる文化を醸成する必要がある。
そのため、運転資金の管理について厳しく見直す時期が訪れている。企業資産の多くは、売掛金や在庫というかたちで固定化される傾向にあるが、運転資金の管理方法や方針を見直すことで現金に変えることができる。
以下、運転資金を管理する際に犯しやすい6つの過ちについて検証していく。これらの過ちを正すだけで、破綻を回避し、今日の不況を乗り切るために十分な現金を創出できる(囲み「運転資金の管理:べからず6カ条」を参照)。
運転資金の管理:べからず6カ条
1. 損益計算書に基づいて管理しない
重要な費目の多くが、損益計算書には表示されないため、在庫や売掛金といったかたちで資産を固定化させてしまいがちである。
ある金属精錬会社が売掛金回収期間を185日から45日に短縮したところ、売上げは減少したが、資本コストを年間800万ドル圧縮できた。この資本コストの圧縮は、営業利益の減少を埋めて余りあるものだった。
2. 営業担当者のボーナスを、営業利益と売上高の伸びだけで決めない
帳簿上の売上高だけに基づく報奨制度では、営業担当者は代金回収に協力しない。
先の金属精錬会社では、営業担当者たちに売掛金の管理への協力を要請した。結果的に売掛金の支払いの遅延や未回収が全体の12%から0.5%未満へと減少し、年間300万ドル近くのキャッシュフローが生み出された。
3. 生産品質を過度に重視しない
品質のみを重視した報奨制度では、製造担当者は完璧を目指し、生産性が落ち込む。
ヨーロッパのあるメーカーは発電所向けに駆動装置を製造しているが、その生産に競合他社よりも3倍の時間を要しており、関連コストを顧客に転嫁できなかった。そこで、品質を上げても付加価値を生み出さない部分を減らすことで、1サイクル当たりの製造時間と在庫期間を20日間短縮でき、2000万ユーロの資本が流動化した。
4. 売掛金と買掛金の条件を同じに考えない
仕入先との関係と顧客との関係では、その力関係が異なる。
フランスのある中小家電メーカーは、仕入先や顧客に応じて異なる取引条件を適用することで、約3500万ユーロの資本が流動化した。年商4億5000万ユーロ弱の同社にとって、これは大きい。
5. 流動比率や当座比率などに基づいて管理しない
銀行は、当座比率や流動比率に基づいて融資判断を下す。このせいで多くの企業が、これらの比率をできる限り高めようとする。
フランスのある消費財メーカーは、流動比率が110%から200%に上昇し、当座比率は35%から100%に上昇したと高らかに発表した。ところが、6カ月後には破産を宣言することになった。
6. 競合他社を基準にしない
運転資金が業界水準であると、経営者は安心してしまう傾向にある。マイケル・デルはデルの運転資金管理を、業界他社ではなく小売業界と比較して、初めて自社はまだ高水準に向けて努力できることを知った。
[過ち(1)]
損益計算書に基づいて管理する
景気後退期において、真っ先に対処すべきことは、これまで用いてきた、収益性に関する業績評価指標から脱却することである。
あなたが購買担当マネジャーで、主に利益貢献度によって査定されるとしよう。ある仕入先が、必要数以上購入してくれれば、値引きすると持ちかけてきた。この申し入れを受け入れた場合、余剰在庫を抱えるために現金が凍結される。
しかし、P/L(損益計算書)には在庫費用は記載されないため、たとえ在庫費用をいちいち計算し、それが値引き分より高くついたとしても、仕入先の申し入れを断る動機は一つもない。実際、値引きの申し出を断った場合、それが全社的には正しい決断であったとしても、あなたのボーナスは損益計算書と連動しているため、痛手を被る可能性が高い。