常人には考えもつかぬひらめきを伴った大胆な構想力、さまざまな分野の書物を通じて得た知識に裏打ちされた戦略眼。その両者を合わせ持った石原莞爾は、明治以降の日本の軍隊において、数少ない天才と呼べる人物であった。だが石原は、満州事変でその才能を遺憾なく発揮するも、組織人としての致命的欠陥から太平洋戦争直前に予備役に編入されてしまう。
最終的に石原の活躍の舞台を奪ったのは、軍務官僚を絵に描いたような東条英機だった。巨大官僚機構たる日本陸軍において、組織調整能力に優れた東条の存在価値はたしかにあったが、戦争という非常事態下ではプラスに作用することはほとんどなかった。石原と東条という2人のエリートを通して、組織の意思を体現していく官僚型リーダーと、長期的視野に立って大胆な戦略を推進する天才型リーダーの相克という、組織にとっての永遠の課題を考察する。