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産業界に広がる「勇気ある行動」
世界中の企業で、リスクは高いが、「勇気ある行動」が日々繰り返されている。ある事業部門を預かるバイス・プレジデントが経営陣の不正行為を告発する。若手マネジャーが自社の信用失墜を恐れて、直属の上司が管轄するプロジェクトへの協力を拒絶する。抵抗勢力の忠告にはいっさい耳を貸さないCEOが、取締役会に将来有望な環境技術への大規模投資を促す。こうした行動の源泉は、いったい何なのだろうか。
捕虜になった経験のあるアメリカ上院議員のジョン・マッケインは、勇気はある瞬間、突発的に生まれるという。「勇気とは、良心、恐怖、行動が一体となった瞬間に生まれ、人間の心の奥深いところに潜んでいる何かが、愛、誇り、あるいは義務などの強い決意となって行動に表れる」と定義する。まさに、本能的に困難に立ち向かい、突如立ち上がって戦いに挑む、孤独なヒーローのイメージそのものだ。
もちろん、時には生死に関わることもある。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロで、警察官と消防士は危険を顧みず、みずからの命と引き換えに人々の生命を救った。2004年、大津波に襲われたインドネシアでは、地元の人たちが見知らぬ人々を救おうと渦巻く海に飛び込んだ。
私は25年間にわたって組織行動について研究してきたが、ビジネスにおいてこの種の勇気ある行動を見たことはない。しかし、社会や会社、あるいはみずからのキャリアのために勇気ある行動に訴えた200人以上のシニア・マネジャーとミドル・マネジャーへのインタビューから、それが衝動的でもなく、突発的でもないことを突き止めた。
ビジネスにおける勇気ある行動とは、意図して特別なリスクを負うことにほかならない。また優れたリーダーとは、普通の人よりも大胆不敵に行動する強い意思の持ち主にほかならない。ただし、万難を排したうえで成功確率を高め、けっしてキャリアを傷つけたりしない。
それは、先見の明のあるリーダーが先天的に備えている特性ではなく、さまざまな決断を経験するなかで身についていくスキルなのだ。言い換えれば、偉大なビジネス・リーダーは、何十年もの間、リスクの高い意思決定を繰り返し、みずからの決断力を磨いているといえる。
一か八かの賭けに勝つには、無意味な行動や無鉄砲な行動を慎む一方、成功確率を高める意思決定スキル──私はこれを「勇気の計算」(courage calculation)と呼ぶ──を習得しなければならない。それは、次のような6つのプロセスからなる。
(1)第1目標と第2目標を定める。
(2)実現する目標の重要性について確認する。
(3)組織を自分の味方につける。