現代の英雄伝説としてのビジネス・リーダー

 リーダーに課せられる試練のなかで、キャリア崩壊の危機からはい上がることほど難しく、また辛いことはない。たとえ、その原因が、自然災害、病気、不正行為、手違い、または何者かの陰謀によるものだったとしてもである。しかし、本物のリーダーはこんなことにひるんだりしない。窮地に活路を見つけ、より大胆な決断と勇気をもって対峙する。

 ジェームズ(ジェイミー)L. ダイモンのケースを挙げてみよう。1998年、彼はシティグループの社長を解任されたが、2006年1月よりJPモルガン・チェースのCEOを務めている。

 また、バンガード・グループの創業者兼名誉会長、ジョン C. ボーグルは、73年、最初に勤めたウェリントン・マネジメントの社長職を解かれたが、インデックス・ファンドの生みの親として[注1]、ガバナンス改革に大きな発言力を持つようになった。

 同様に、スティーブン J. ヘイヤーは2002年、社長兼COOとしてコカ・コーラの経営に参画したが、2004年6月、突如同社のCEOを辞職し世間を驚かせ、同年10月、スターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドのCEOに就任している。

 最も波乱万丈なのは、おそらく不動産王のドナルド・トランプだろう。彼は自身が所有するカジノ事業の財務危機を2度克服し、今日では大規模な不動産ディベロッパーとして、またNBCの人気ノンフィクション番組『ジ・アプレンティス』の主演兼プロデューサーとしても高く評価されている。

 これらの話はむろん例外であり、一般的なものではないかもしれない。「アメリカ人には第2の人生がない」。アメリカの小説家、フランシス・スコット・フィッツジェラルドのこの有名な言葉は、ビジネス・リーダーたちのキャリア崩壊に影を投げかけている。

 我々は、88年から92年の間に公開企業で起きた450件以上のCEO交代について分析した。その結果によると、解任されたCEOのうち、その後2年以内に再び経営者として活動を再開したのはわずか35%であった。22%は一線から退いて、主に中小企業にカウンセリングを提供したり、取締役会に出席したりする顧問に納まり、残り43%は事実上そのキャリアを終えて引退していた。

 その座を追われたリーダーの復活を阻むものは何か。立ち直れないリーダーはみずからを責める傾向にあり、将来に目を向けるよりも過去に引きずられることが多い。事実とは関係なく、彼ら彼女らは密かに、みずからのキャリアの挫折はおのれの責任であると考え、みずからが張り巡らした心理的な網に絡まり、かつての地位に就くことができずにいる。

 このような傾向はたいてい、善意の同僚、家族や友人によってますます強化される。

 彼ら彼女らは、この最悪の事態を取り巻く混乱を理解しようとして、かえって傷口に塩を塗りこんでしまうことがあるからだ。皮肉なことに、せっかくのアドバイスも役に立つどころか、いっそう当人を傷つけてしまうことが多々あるのだ。