ノモンハン事件、ガダルカナル島の戦いという、日本陸軍が大損害を被った2つの戦闘において、参謀としてその大きな原因をつくったのが辻政信である。いずれの戦いでも、作戦が破綻し敗色が濃厚になってもなお戦闘継続を強硬に主張し、いたずらに損害を拡大させた。一方で彼は、大東亜戦争初期のマレー作戦を成功に導き、「作戦の神様」とまで呼ばれた経歴も有する。

成功・失敗いずれのケースでも、辻は日本陸軍の悪しき伝統ともなった「独断専行」を身をもって体現していた。陸軍におけるエリート中のエリートで、超人的な体力と意志力を持つ辻は、実は例外的な存在ではなく、陸軍という組織が最も重視していた理念を過剰に追求していただけにすぎなかった。問題は、組織の理念と普遍的価値のバランスが取れていなかったことにあるのではないか。

一見すると特異に見られがちな辻の行動を通して、日本陸軍におけるリーダーシップと組織の問題に考察を加える。