近くて遠い2つの組織

 ずいぶん前のことだが、某メーカーの設計部門は、完成した設計仕様書を製造部門に渡すだけでなく、早期段階からその意見を取り入れることで時間とコストを節約できることに気づいた。設計部門と製造部門のコラボレーションは会社にも顧客にも有益であり、相互不干渉であることはまことに効率が悪い。

 同様に、営業とマーケティングも密接に関わっている。そろそろ歩調を合わせる努力をすべきだろう。しかし現実には、両部門は異なる職能と位置づけられ、組織も別々である。当然、両部門が一緒に働いたとしても、息が合うことは稀である。

 販売実績が予測を下回ると、マーケティング部門は「完璧な計画を立てたのに、営業が実行しなかった」と非難の声を上げる。かたや営業部門も黙っていない。「価格が高すぎるし、計画を実行するには予算が足りない。我々の体制も完璧ではないのだから、販売手数料を引き上げることもままならない」と訴える。

 営業担当者は、マーケターは顧客の実情を知らないと思っている。一方マーケターは、営業担当者の近視眼的な態度にいら立つ。個々の顧客行動ばかり見ていて、市場全体の動きに無頓着だから、長期的視点で物事を考えられないと不満を感じている。要するに、2つの部門は互いの貢献を評価していないのである。

 両部門の足並みの乱れは、全社業績にはマイナス要因である。我々は調査とコンサルティングを通じて、両部門が連携に失敗し、全社利益を損なう例を数多く目にしてきた。反対に、歩調を合わせれば、主要な業績評価指標が飛躍的に改善される。また販売サイクルは短くなり、市場参入や営業にかかるコストも下がる。

 それを証明したのが、IBMが営業とマーケティングを統合させた「チャネル・イネーブルメント」という新組織である。この組織改編をする前、執行役員のアニール・メノンとダン・ペリーノは、同社のマーケティングと営業が完全に分離していることを嘆いていた。

 営業部門は注文に応えることしか考えず、みずから需要を掘り起こそうとしなかった。マーケターの考える広告戦略では販売実績が上がらないのだから、営業担当者がマーケティング活動に熱意を持って臨めるはずがない。マーケティング部門が新製品を発表しても、営業部門の体制はこれに対応できるものではなく、いざこざが絶えなかった。

 我々はマーケティングと営業のすれ違いに注目し、両部門が成果を高め、全社に貢献できるようなベスト・プラクティスを見出すための調査を実施した。対象企業は、重機、素材、医療機器、電子製品などの各メーカー、金融サービス会社、航空会社などである。これらの企業のCMO(最高マーケティング責任者)と営業責任者の両者にインタビューした結果、次のような実態が明らかとなった。