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ワーカホリックを招く組織文化
筆者が「ワーカホリックス・アノニマス」(仕事中毒の人のための相互援助団体)を通じて知り合ったジェフは、ワーカホリックから回復する努力を続けている。彼はもともと自分の内にあった不安や恐れによって、長時間労働や深夜労働、睡眠不足、そして常に仕事が頭から離れない状態が引き起こされたことを理解していた。
最初は内なる強迫的衝動から始まったものが、のちに彼を取り巻く組織文化によって強化され、キャリア全体にわたる破滅的な仕事中毒へと発展したのだ。「上司は私の勤勉さをほめ、私がいつも遅くまで職場に残っているのを見て使命感が強いと称賛していました」と、ジェフは話す。彼は、筆者の近著Over Work[注1]で紹介している他の人々と同様に、ファーストネームだけの記載を許可したうえで話してくれた。
長時間労働と睡眠不足のせいで、優れた仕事ができなくなっている自覚がある時でさえ、そのような称賛を受けたという。ジェフには先延ばし癖があり、現実的なタイムラインやスケジュール、期日の設定ができずに苦しんでいた。彼とそのチームは、プロジェクトを終わらせるために深夜に多大なストレスを抱えながら必死に仕事をすることが多かった。
「私たちの会社は組織文化のマネジメントに問題があり、『職場にいること』が生産的だという考え方をしていました」と、彼は述べる。「職場にいることは容易に測定できますが、生産性を測定するのは難しいことです。そのうえ、働きすぎへと追いやる社会的圧力は非常に大きなものでした」
ジェフの話は、ワーカホリックと長時間労働が、生産性向上やよりよい仕事につながらないことを示す研究結果[注2]の典型的な例である。産業心理学と組織心理学を専門とし、ワーカホリックについて研究するジョージア大学准教授のマリッサ・クラークは、筆者に次のように語った。「長時間労働をしている人は、高い業績を挙げていると思うでしょう。しかし、私たちの研究によれば、実際にはそうとはいえません。それどころか、非生産的な仕事の割合が高いことがわかっています。これは組織にとってけっして好ましいことではありません」
それだけではない。長時間労働は、燃え尽き症候群や不必要なミス、事故、思考の混乱、プレゼンティーイズム(不調を抱えながら出勤すること)、健康リスクの増加、さらには短命にさえ結びついている。また、経済的な損失もある。ギャラップの試算によると、長時間労働のストレスによって従業員のエンゲージメントが低下し、これが毎年、世界中のGDPに8.9兆ドルの損失をもたらしているという。
この数十年間、ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディンをはじめとする経済学者が、仕事がいかに「貪欲」になったかを明らかにしてきた。従業員により多くの労働時間と職場への滞在を要求し、ワーカホリックを助長し、性別による賃金格差の原因になってきた。女性やケア責任を負う人々は、当然多くの時間を確保できず、それに応じた報酬や昇進を獲得することができないのだ。
新型コロナウイルスの流行により、仕事のあり方の一部が変化したものの、多くは依然として流動的である。特に知識労働者は、働く時間や場所、やり方に対する、いっそうの柔軟性を求めている。