-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
ポテトチップに文字や絵を印刷する?
2004年、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、ポテトチップスの〈プリングルズ〉シリーズに新商品を追加した。これは、ポテトチップ一枚一枚に絵や文章、たとえば雑学クイズや動物豆知識やジョークを印刷したもので、発売後、たちまちヒット商品の仲間入りを果たした。
ちょっと前までならば、上市するまでに2年はかかっていたことだろう。また、開発費もリスクも、すべて自前で負担していたはずである。ところが、イノベーションの進め方を抜本的に改革した結果、この〈プリングルズ・プリンツ〉では、コンセプト開発の段階から発売までの期間をわずか1年足らずとし、またコストも通常の何分の1かに抑えることに成功した。まず、その経緯についてご説明したい。
いまをさかのぼる2002年、あるブレーンストーミング中のことだ。そこでは、スナック菓子に、よりユニークで、おもしろい魅力を加味できないものか、喧々囂々の議論が交わされていた。すると、だれかが〈プリングルズ〉にポップ・カルチャーのキャラクターを印刷してみてはどうかと言い出した。けだし名案だった。しかし、どうやって──。
ある研究者が、ポテトの生地にインクジェット方式で印刷することを思いついた。その研究者はオフィスにあったプリンターで実験を決行したが、ご想像のとおり、社内のコンピュータ相談窓口に泣きつくはめとなった。
やはり、揚げたてのポテトチップスがまだ熱く湿っているうちに、一枚残らず印刷し終わらなければならない。しかも、毎分何千枚ものポテトチップスに印刷するだけでなく、色鮮やかな多色刷りを施すには、何か工夫が必要だった。そのうえ、これらの条件を満たす食用色素を開発するのも、一大発明の類であった。
従来ならば、実用に足る製造工程を完成させるだけで、開発費の大半を注ぎ込まなければならなかったであろう。社内チームを編成し、インクジェット・プリンター・メーカーと手を組んで、くだんの製造工程を開発する。そのうえで、当該工程の使用権をめぐって複雑な交渉に臨む。こんな進め方だったはずだ。
ところが、我々が実際にやったことは、解決すべき問題点を明らかにした技術資料を作成することだけだった。そしてこの技術資料を、さまざまな個人や組織を結んだ当社のグローバル・ネットワークに流通させ、世界のどこかに、これを解決できる方法がないか、くまなく探索した。
すると、イタリアのボローニャに一人の大学教授が経営する小さなパン屋があり、そこが製パン機器も製造しているという情報が、ヨーロッパから上がってきた。その大学教授は何と、食用可能な絵をケーキやクッキーに印刷できるインクジェット方式をすでに開発していたのだ。