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プロダクトR&Dから
カスタマーR&Dへ
イノベーションへの取り組みは、それが中途半端であろうと一生懸命であろうと、投資家が期待すること、すなわち売上げを継続的に増加し、収益性を向上させることに貢献していないことが多い。それゆえ、事業計画と市場の成長予測との間に大きなギャップが生じる。ひいてはそれが、株価や株式時価総額、PER(株価収益率)に跳ね返る。
我々はそれを「成長ギャップ」と呼んでいるが、この現象は、顧客が何を望んでいるのかを十分に理解したうえでイノベーションを推進するのではなく、無関係にR&Dに資金を注ぎ込んでいるために発生する(囲み「成長ギャップをいかに解消するか」を参照)。
成長ギャップをいかに解消するか
CEOは「四半期決算の目標値を達成しなければならない」という、セル・サイドとバイ・サイドの証券アナリストからのプレッシャーに悩まされている。しかし、超短期的な業績に気を奪われるよりも、はるかに重要かつ根本的な問題がある。自社にも「成長ギャップが生じているのではないか」という問題だ。
株式市場は、企業の過去の実績と将来の計画に基づいて、将来の業績について一連の期待を形成し、株価を決める。株価には「成長要素」と「非成長要素」の2つが反映される。前者は、資本コストを上回る利益をもたらす新しい戦略を立案し、これを実行する能力に関する市場の期待を反映する。後者は、既存投資の将来性を意味する。
たとえば、あなたの会社のPERが平均20倍ならば、バリュエーション・モデルからすると、あなたの会社の株価の約50%は新規投資機会に起因していると考えられる。過去の業績と競争的な市場機会を考え合わせることで、資本市場はすでに、あなたの会社は新しい投資機会をたえず見つけていると見なす。それゆえ、これら新しい投資機会から、競合他社によってその優位性が崩されるまで、何年にもわたって大きな利益が見込めることを期待する。
しかし、成長をもたらす投資機会が見つからなかったとしよう。その場合における資本市場の期待と企業の事業計画の差が「成長ギャップ」である。この状況にあっては、いかにチャレンジングな事業計画を発表しようと、やがて資本市場はその計画が実現されていないことに気づき、株価は下がる。そしてPERは20倍からたちまち10倍に下降するだろう。
意外にも、ほとんどの企業がこの成長ギャップを解消する方法を知らない。我々は長年にわたってスタンダード・アンド・プアーズ500を研究してきたが、たとえばゼネラルモーターズやIBMなど、製品開発や技術革新にほとんどのR&D予算を費やしている企業の大多数は平均PERすら実現できていない。
したがって投資家たちは、そのような従来型のR&D投資からは、平均的な売上高成長率をクリアするイノベーションすら期待できないと考えているようだ。
一方、スターバックスやデルなど、一貫して市場平均値を上回るPERを維持している企業は、従来型の製品開発や技術開発にはほとんど投資せず、カスタマーR&Dに力を入れる傾向がある。
ほとんどの企業が、早晩R&Dの方針を転換する必要に迫られるのは明らかだ。なぜなら、顧客に注力することが、成長ギャップを解消する唯一の方法だからである。
このような伝統的なアプローチは、R&D部門には歓迎されるが、顧客や投資家には背を向けられる。その結果、R&D支出が最も大きい企業でさえ、顧客イノベーションを実現することも時価総額を押し上げることもできずにいる。
我々は世界各国の何百社ものマネジャーと一緒に、重工業プラントから学術研究まで、あるいは小売業から金融サービスまで、多種多様な分野や企業にわたって、市場の期待に応え、それを上回る業績をもたらすイノベーション・プロセスを開発してきた。
我々はこのプロセスを、顧客を第一に考えた「カスタマー・セントリック・イノベーション」(CCI)と名づけた。CCIは、単に売上げを伸ばすためだけではなく、高い売上げ増を持続させる、ひいては株式時価総額を上昇させるイノベーション・プロセスである。
CCIの要は文字どおり、顧客とそのニーズの理解を継続的に深める「カスタマーR&D」(顧客本位のR&D活動)である。このカスタマーR&Dは、バリュー・プロポジション(提供価値)を改善すると同時に、満足度の高い顧客体験を提供する方法に焦点を置いている。
顧客について学び、適切なセグメンテーションを設定し、バリュー・プロポジションを設計し、満足される顧客体験を提供する仕組みをつくるには、たえず顧客と接している従業員の参加が不可欠である。したがって、CCIプロセスの主役は、顧客接点で働く従業員でなければならない。端的に言えば、カスタマーR&Dとは、イノベーション活動を、本社やR&D部門の手から、顧客接点を預かる従業員の手に移すことにほかならない。
ベスト・バイやロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)、セブン‐イレブン・ジャパンなど、以下で紹介するカスタマーR&Dを導入している企業は、相関する3つの戦略上のメリットを享受している。
(1)競合他社には入手が難しい情報の収集が可能なため、競合他社の脅威を未然に防ぐことができる。顧客志向が強ければ強いほど、競合他社がこちらの手の内を把握するのに時間を要するため、勝算は高まる。