生え抜きのターンアラウンド・マネジャー

 売上げ、利益、市場シェアの常識を超えた目標。斬新なビジネスモデルや画期的な新技術に基づく大胆なビジョン。買収や提携など、業界地図を塗り替えるような戦略的な行動。そして、ためらうことなく大ナタを振るう外部から招聘された新CEO。業績を一新するには、このようなショック療法こそ必要であるといわれる。

 しかし、アラン G. ラフリーがプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCEOに就任してからの5年間を見る限り、そのようなアプローチが必ずしも必要なわけではなさそうだ。このグローバル企業は一時経営に失敗し、自信喪失に陥っていたが、生え抜きリーダーの緻密な指導力によって再び業績を伸ばしている。

 ラフリーのこれまでを振り返ってみると、このような企業再生のCEOに突きつけられた大きな課題が2つ浮かび上がってくる。すなわち「変革のスピード」と「ストレッチされたアスピレーションの必要性」である。

 ラフリーは2000年6月にCEOに就任したが、その当初、株式市場が見せた失望感を、彼はいまなお鮮明に覚えている。

「CEOへの就任を発表した当日の午後6時、地元シンシナティのテレビに出演したところ、P&Gとその業績不振についてさんざん批判されました。このいきなりの不意打ちに、私はただただぼう然とするしかありませんでした。しかも、私がまったくの無名だったこともあり、その日だけで株価が何ドルか、下がりました」

 たとえば、ホーム・デポがゼネラルエレクトリックからロバート・ナーデリを、ボーイングが3MからW・ジェームズ・マックナーニ・ジュニアを招いたように、社外から有名CEOを招聘していたならば、P&Gの株価も上昇していたかもしれない。生え抜きCEOでは、求められている規模と水準の変革は難しいというのが、株式市場の常識だからである。

 同じく生え抜きだった前任者、ダーク・イェーガーの時代、P&Gは4カ月の間に何と3回も業績予測を下方修正したことがある。ひどい時には、一日で30%も株価が下がった。もっとドラマティックな仕掛けが必要であると投資家たちが考えたのも無理からぬことだろう。