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先行者は必ず成功するのか
経営学の概念のなかには、直感的にまったく当たり前と思えるものがある。「先行者利得」がその一つだ。
ドットコム企業はその熱心な信奉者だったが、各社がたどった末路を見れば、眉に唾してしかるべきはずだが、なぜか多くの人々が、他社に先行すれば競争優位が得られると信じ込んでいる。そこにネットワーク効果(ネットワーク外部性)が働かない場合であってもである。また、経営者の大半がほぼ例外なく、ある産業、ある商品カテゴリーにいち早く参入すれば、とうてい逆転不可能なリードを必ずや確保できると信じている。
しかし学問的には、先行者利得の存在を訴える論文の数と、先行者利得など存在しないと主張する論文の数はほぼ同じくらいある。また有名な事例を見ても、安全カミソリのジレット、携帯音楽プレーヤーのソニーは大成功を収めたが、ファックスのゼロックス、インターネット小売りのeトイズといった失敗例もある。
我々はあることに気づいた。成否はランダムに決まるのではない。他者に先行するという条件は競争優位をもたらす場合もあるが、必ずしもそれを保証するわけではない。ほとんどの場合、事業環境次第なのだ。
ソニーが成功したのは、強いブランド力、豊富な資金力、抜群のマーケティング力と三拍子揃ったところに、先行者としての立場を思う存分活用できたからである。そう説明することもできる。ならば、ゼロックスも一流ブランドであり、資金力にも問題はなく、独自のスキルも備えていた。
そのソニーにしても、家庭用ビデオを見ると、同じブランド力とマーケティング力を駆使し、同じように先行しながら、いま一つだった。〈ウォークマン〉の成功には遠く及ばない。要するに、さまざまな能力(そして運も)たしかに大切だが、成否を決める要因はほかにもあるのだ。
我々は先行者利得に関する文献を徹底調査したほか、他社に先行して上市された新商品30余種類について分析した。その結果、先行者利得を生み出す条件、生み出しにくい条件がわかってきた。
先行者の運命を大きく左右する要因は大きくは2つある。商品に使われる技術が進歩するスピードと、商品が販売される市場が拡大するスピードである。技術と市場、双方のスピードを見極められれば、自社の現有能力で成功を収めるチャンスはどれくらいなのかを判断できるだろう。
長期的な先行者利得
短期的な先行者利得
先行者利得の定義は単純明快である。すなわち「ある企業が新たな商品カテゴリーで最初に商品を売り出した結果、他社より好業績を収めること」だ。また、市場シェアや収益性を長きにわたって支える「長期的な先行者利得」と、すぐに消え去る「短期的な先行者利得」に区別すると便利である。