一国を経済成長へと向かわせる精神

 世界の投資家たちの間でインド・ブームが起きている。最近の欧米のマスコミでは、中国──よく知られた奇跡の経済成長と世界貿易の超大国──について語る際、インドを引き合いに出さないことはまずない。非科学的な検証であることは承知のうえだが、「インド」と「中国」のキーワードを組み合わせてインターネットの検索サイト〈グーグル〉で検索したところ、検索結果の件数は「インド」と「虎」の10倍以上、「インド」と「マハラジャ」の100倍にも及んだ。だが、こうした盛り上がりの最中、あえてこう問いかけてみたい。

「インドははたして、グローバル経済において中心的な役割を果たす準備ができているのか」と。

 インドの長所と短所を並べてみせるというありきたりなやり方よりも、違う角度から次の疑問を投げかけたほうが役に立つだろう。

「インドははたして、グローバルに統合されていく経済の担い手となるために必要なマインドセットを備えているのだろうか」

 マインドセットという概念は扱いにくいものだが、一国のマインドセットについて語るのはなおのこと難しい。しかし、国が発展する過程で、自国が世界を相手に回して、あらゆる課題を克服し、どんな夢でも実現できるという自信を感じる時期があるらしい。そのような精神が正しい方向に向かえば、成長するうえで大きな助けとなる。

 実際、1950年代から60年代にかけての日本や70年代の韓国、今日の中国のように、爆発的な成長を遂げるには、そのような精神がきわめて重要であると主張する社会学者もいる[注1]

 かつて1人当たりの国民所得がインドと同水準だった韓国を、わずか40年の間にOECD加盟国へと成長させたのは、まさにそのような精神である。それと同じ精神が、ほんの10年前は農地が大半を占めていた上海の浦東(プドン)地区に未来都市を建設した。

 現在、その精神は、世界規格に準じ時間どおりに運行するデリーメトロ(都市交通網)に結実した。それは「ホワイ」(どうしてやるんだ)ではなく、「ホワイ・ノット」(どうしてやらないんだ)と尋ねる精神なのだ。