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高業績だが問題社員でもあるボスザル男
頭が切れ、自信にあふれ、成功をつかむ──。マネジャーの7割がたは、この種の「ボスザル男」である。その名のとおり、とにかく人の上に立たないと満足できない、何でも自分が仕切るのが当たり前と考える人たちだ。
成功した女性リーダーのなかにも、同じように強烈な人格を備えた人は少なくないが、女性トップの場合、ボスザル男の特性と一致する例はまずない(囲み「ボスザル女」参照)。
ボスザル女
だれかに「あなたの職場にボスザル男はいますか」と尋ねると、すぐに何人も名前が挙がってくる。しかし「ボスザル女はいますか」と聞くと、たいていが首をひねるだろう。
ボスザル女とは、頭の切れる女性のことだろうか。それとも、仕事をてきぱき片づける女性を指すのか。それともいばっている女性か。
成功を収めた女性リーダーも少なくないが、男性のそれとは違って、なかなか一つの型にははまらない。我々2人は各方面のマネジャーたちと仕事を一緒にするなかで、ある程度まではボスザル男と共通の特徴を備えた女性に何人か出会ったとはいえ、まさしくボスザルそのものという女性は一人もいなかった。
女性のなかにも、ボスザル男と同じくデータを重んじる人、あるいは独善的な人は存在する。またストレスに強い人も同様である。しかし女性は、ほとんどの場合、対人関係を重視し、周囲の人たちの感情に細やかに配慮している。
女性のトップも、権力や責任に怖気づくことはないが、ボスザル男のように周囲の人や状況をすべて支配しようとはしない。才能、意欲、頑固さ、そのような面では男さながらだが、女性は他者との協調に優れており、そのおかげで高い地位に就くことが多い。また、何かを手に入れるために威嚇に出たりすることもほとんどない。
女性リーダーはむしろ「柔らかいハンマー」を使うことが多い。たとえ命令であっても、礼を尽くした提案のように表現するのである。
しかし、女性リーダーでもボスザル男のように、怒りの爆発、弱い者いじめといった症状を呈する人、己の保身に走る人、他人からの批判を受けつけない人はいる。
ただし、会社という場所は──社会全体もそうだが──このような行動を見せる女性への寛容度は、同様の男性へのそれよりもずっと低い。したがって、この種の傾向が強い女性が経営陣のポジションまで出世することはめったにない。
もっともコーチの立場として申し上げれば、女性トップというのは、時にボスザル男と同じくらいやっかいな相手である。どちらも自分の流儀を押し通して出世してきたため、そもそも自己変革の必要性を納得させるのが一苦労なのだ。
それでも女性リーダーのほうが、プラス志向のモチベーションの重要性、恐怖による支配の限界をすぐに理解してくれる。加えて、対人関係の問題からもあまり逃げようとはしない。ただし、感情という微妙な側面にタッチされたくないのは、ボスザル男たちと変わらない。
周囲の人間のやる気を引き出すことは正しいアイデアの追求と同等に重要であると理解していることも事実であり、コーチングを受けることにも前向きである。
男性の場合と同じく、特にエネルギッシュな女性にも固有の行動パターンが見られる。ただし、女性の行動パターンは男性のそれよりも、はた目にはわかりにくい。女性リーダーとつき合う時にも、ボスザル男と向き合う時と同じように、いろいろなシグナルを見逃さないように十分注意しなければならない。
女性は特に、キャリアの前半で周囲の批判に傷ついた経験が多いため、部下のやる気を損なうことを恐れて、自分ではなかなか部下を批判しない。
実際はたから見ると、ボスザル男よりも肯定や追認の言葉が多く、それゆえ女性上司の部下たちは、問題が起こっているのにもかかわらず、何事も順調に進んでいると錯覚してしまう危険がある。
したがって女性上司は、自分の地位が危うくなったという場合、きわめて唐突な印象を受ける。問題を修正するチャンスを与えてもらえないまま、もう手遅れと宣言されるからだ。
女性リーダーは衝突を嫌う。一方ボスザル男はまさに対決を糧にしているところがある。ボスザル男は、何か気に入らないことがあると、それをはっきり口に出す。女性リーダーは、すぐに同意が得られそうな場合を除いて、あまり人前で問題をはっきり指摘したりしない。
そもそも女性は協力関係を重んじ、共存共栄を求めるため、議論は恐れないが、だれかが感情的な反応を示すと、すぐさま一歩譲って、はっきり白黒をつけようとはしない。
女性はこのような間接的なコミュニケーション・スタイルゆえに、同僚の男性から誤解を受けやすい。事実、我々2人がコーチした女性リーダーのなかには、同僚から「派閥づくりを好む」とか「裏表がある」と批判された経験について語る人がいた。
間接的なコミュニケーションは、ある種の男に不信感を抱かせるという点を、女性リーダーはよくよく心しなければならない。女が「人づき合い」と呼ぶものを、男は「派閥」と呼ぶのである。
ボスザル男は生まれながらのリーダーであり、大組織の最上層に上り詰め、並みの人にはとうてい耐えられないような責任を平然と請け負う。凡人ならば、重大な決断を迫られるとストレスを感じるものだが、ボスザル男は逆に、このような重大な意思決定が自分の手に委ねられないとストレスを覚える。
彼らにすれば、責任の重い立場を任され、そこから命令を下すことこそが生きがいであり、理性ある人間なら尻込みしそうな重責を好んで背負う。とはいえ実のところ、ボスザル型のリーダーが一人もいない大企業は想像しにくい。
では、なぜ彼らをコーチングで手なずける必要があるのか。要するに、ボスザル男の本質的な長所はそのまま、周囲にすればわずらわしさであり、時には嫌悪感を呼び起こすからである。独立心が旺盛で、行動力あふれるボスザル男は自他共に、高い業績を当然のごとく要求する。
あるビジネス・ジャーナリストは同じ週に、ジャック・ウェルチとアンディ・グローブの2人を取材した後、思わずこう漏らしたそうだ。「まったく何て強烈で、刺激的な人たちだ。とはいえ、彼らの部下でなくて本当によかったよ」
我々2人が直接に知っているボスザル男たちは、とにかく頭の回転が速く、間髪なく意思決定を下すため、まったく周囲の声に耳を貸さない。周りが「ボスザル語」でしゃべってくれない時には特にそうである。
総じて性急に過ぎるため、重要なディテールを見逃すことがある。またボスザル男は、何にでも一家言持っており、自分の意見が間違っている、あるいは完全とはいえない可能性をなかなか認めようとしない。