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硬球でプレーしているかそれとも軟球か
産業界の勝者たちは、しんどいことを平気でやってのけ、また言い訳などいっさいしない。
たとえばトヨタ自動車は、ライバルからの抵抗が弱そうな部分から順にビッグ・スリーに挑戦し続け、まずコンパクト・カーから中型車、そして大型車と進み、アメリカ自動車メーカーの最後の砦であった軽トラック、四輪駆動車に迫ってきた。その間、トヨタはずっと比類ない生産性と品質を実現する生産システムを誇示し、「できるものなら真似てみろ」と言わんばかりであった。
デルコンピュータも、遠慮も容赦もない。2003年夏、ヒューレット・パッカードは業績悪化を発表し、PC市場における価格競争を理由に挙げた。そのすぐ翌日、デルは全商品の値下げを発表した。倒れた相手にすかさず蹴りを食らわすような話である。
またウォルマート・ストアーズは、サプライヤーに冷徹な態度で接することで有名である。
1996年、ラバーメイドはウォルマートの厳しい仕入値の引き下げ圧力に抵抗しようと試みた。当時、同社は年商20億ドル、数年前には『フォーチュン』誌の「最も尊敬される企業」に選ばれたこともある。この時、ウォルマートは何の相談もなくラバーメイドを切った。なおラバーメイドはその後業績が低迷し、99年にニューエルに買収された。
ウォルマートは同業他社にも手加減しない。最近の例では、Kマートが倒産の危機に瀕した時、ウォルマートはKマートの売れ筋である〈マーサ・スチュワート〉シリーズを真似た商品を売り出し、苦しむKマートの数少ない収益源にさらに圧力をかけた。
ここ10年の産業界を振り返って、トヨタが、デルが、ウォルマートが成功企業のまさに典型であることに異論はなかろう。とはいえ、周囲の見方にはやや微妙なところがある。
最近の『ビジネス・ウィーク』誌の特集記事を見ても、「トヨタを止める者はいないのか」「ウォルマートは強すぎるのか」「デルについてあなたが知らない事実」といったタイトルが並び、彼らの成功への道が必ずしもきれい事だけではなかったことがうかがわれる。
トヨタやデル、ウォルマートは、言わば硬球、すなわち「ハードボール」を使った真剣勝負に身を置いているのである。