オンラインとオフラインの壁を壊すデータ統合と実行力

 AIによる顧客理解の深化は、CRM2.0実現に向けた重要な一歩だ。しかし、多くの企業の前にはもう一つの大きな壁が立ちはだかっている。それは、オンラインとオフラインに分断されたデータの壁である。

 桑野氏は、「オンラインとオフラインを横断したハイブリッドモデルとしてデータを統合・活用できている企業は、まだ少ないのが現状です」と指摘する。ウェブサイトやアプリといったデジタル上の顧客行動でさえ、チャネルを横断した統合は困難を極める。ましてや、実店舗での購買履歴や接客記録といったオフラインのデータとリアルタイムに連携させ、一貫した顧客体験を提供することは、非常に難度の高い領域だった。

 プレイドは、この難題を解くためにオンラインとオフラインの融合にも取り組んでいる。KARTEがオンライン上の行動データをリアルタイムで可視化するのはもちろんのこと、オフラインの体験をデジタルデータに変換するための多様なソリューションの開発を進めているのだ。

 たとえば、店舗への来店を検知する「来店チェックイン」や、試着室に持ち込まれた商品をRFID(無線自動認識)タグで読み取りKARTEに連携させる仕組み。さらには手の空いた店舗スタッフがオンライン上の顧客をビデオ通話で接客する「KARTE Jam」など、そのアプローチは多岐にわたる。これらは、分断されていた顧客体験をシームレスにつなぎ、オンライン・オフラインを問わず、常に「その人」に最適化された顧客体験を実現するための基盤となるものである。

 こうした先進的な取り組みがもたらすインパクトは、すでに多様な業界で目に見える成果として現れ始めている。

 ある旅行業界の事例では、店舗への来店を予約した顧客が、予約当日までにオンラインでどのような情報を検索し、どんなツアーに関心を持っているかをAIが要約。そのサマリーを店頭スタッフのダッシュボードに表示する仕組みを構築した。

「まだ具体的な目的地は決まっていないお客様への接客において、どこへ行きたいのか、何を目的にしているのかをある程度絞り込み、来店された時点でよりパーソナライズされた提案がすぐにできる。それをAIでサポートしています」(桑野氏)

 店頭スタッフは顧客の潜在的なニーズや迷いを事前に把握したうえで接客に臨めるため、成約率の向上や商談時間の短縮につながっているという。

 また、ある証券会社のコンタクトセンターでは、AIが顧客のウェブサイト上の行動を分析し、問い合わせ内容を予測。オペレーターに対して最適なFAQを提示したり、顧客自身による自己解決を促したりする「スマートエージェント」機能を導入した。その結果、入電数の削減や対応時間の短縮はもちろん、オペレーターのストレス軽減、ひいては離職率の低下という、EX(従業員体験)の向上にも貢献している。

 次世代CRM2.0実現への取り組みを、プレイド1社で完結させるつもりはない。桑野氏は、「アクセンチュアとは上流コンサルティングで、Google Cloudとはマーケティングプラットフォームや顧客データプラットフォームの構築などで連携し、サードパーティベンダーともハードウェア開発を通じて新たな価値訴求を目指しています」と述べ、外部パートナーとのエコシステム構築を重視する姿勢を強調した。

 そして桑野氏は、「生活者の視点では、『自分のことを理解してくれている』サービスが当たり前となる時代がすぐそこまで来ています。その時代に一歩でも早く適応できるよう、私たちはクライアントを全力でサポートします」と述べ、講演を締めくくった。

 オンラインとオフラインの境界が溶け合い、AIが人の行動のコンテクストまで深く理解し始める時代。すべての顧客体験を自社だけで最適化し続けることは、不可能だ。最先端のテクノロジープラットフォームを提供するGoogle Cloud、顧客関係の再構築と企業変革を戦略レベルから支援するアクセンチュア、そして先進テクノロジーと豊富なデータに基づいて一人ひとりに最適化された顧客体験を現実のものにするプレイド。こうしたパートナーとのコラボレーションこそが、企業が持続的な成長を遂げるためのカギとなるだろう。

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