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AIが特定のタスクにおいて人間の能力を上回り始めたこの時代に、経営リーダーは人的資本をどう捉え直し、人材育成・組織開発のあり方を変革していけばいいのだろうか。あるいは、経営リーダーに求められる要件は、どう変わっていくのか。一方、長寿社会を生きる我々は、みずからのライフマネジメントをどのようにデザインしていくべきなのか。近著において、人生という一大プロジェクトの基本原理や課題解決アプローチを経営戦略の枠組みで解き明かした山口周氏と、プレイドの社内起業組織「STUDIO ZERO」代表の仁科奏氏が、激動の時代を生き抜くための羅針盤を提示する。
呪いからの解放のため、人生に「経営戦略」を
仁科 山口さんの最近の著作『人生の経営戦略』を読んで、とても共感しました。
山口 ありがとうございます。
仁科 私はプレイドで社内起業組織「STUDIO ZERO」(スタジオゼロ)を率いています。一度プレイドを離れ、再び戻ったのは、「よく生きる人」を増やしたいという自身のパーパスのためです。ここで言う「よく生きる人」とは、「自己実現を徹底し、かつ周囲にプラスのインパクトを与える人」を指します。そのためのインフラをつくりたいと考え、当時iモードという斬新なプラットフォームを世に送り出したNTTドコモに新卒入社したのがキャリアのスタートです。
30歳手前でプレイドを辞めスタートアップ経営に関わった後、あらためて自分のパーパス実現に向けて仲間を集め、産業と社会の変革を加速させるために企業や行政とともに事業を創造したり、困難なテーマに取り組んだりしたいと考え、プレイド創業者の倉橋(健太社長)と議論したところ、社内起業を提案され、スタジオゼロを立ち上げたという経緯です。
山口 人生という長期プロジェクトを経営戦略の視点で見つめ、キャリアを築いてこられたわけですね。私が『人生の経営戦略』を執筆した背景も、そこにつながっています。私が長年感じているのは、多くの人が「もっと自由に生きていい」ということです。「安定した会社に入らなければならない」「親がこう言っているから」といった、社会や他者からの「呪い」によって、自身の思考や行動の自由を縛られてしまっている人が非常に多いと感じるのです。
経営コンサルタントとして20年ほど企業の戦略策定に携わりましたが、経営者の中にも、この「呪い」にかかっている人が少なからずいました。企業経営の自由度を広げるには、やはり戦略論の深い理解が必要です。同様に、個人の人生においても、オプションバリュー(選択肢を持っていることの価値)を広げるためには、人生に経営戦略のフレームワークを適用することが有効だと考え、この本を書きました。
社会において自分が最も楽しく活躍できる場所は、最も高いバリューを出せる場所でもあります。それは経営戦略におけるポジショニング論に通じます。人生には多くの可能性があるからこそ、戦略をしっかり考えて人生をデザインしてほしいという、ある種の歯がゆさが執筆の動機となりました。
仁科さんがドコモに入社したのも、大企業だからではなく、iモードというプラットフォームに面白みを感じたからですよね。
仁科 はい。プラットフォームづくりを学ぶために入社しました。
山口 自身の「人的資本」を伸ばすうえで最も重要なのは、いい知識や経験、スキルを得られる場所と人を選ぶことです。
仁科 20歳頃にさまざまな出会いを通して、「自分のためだけにお金や時間を使うのは、違うのではないか」と感じるようになりました。人生の目的を考えた時、自分を軸にしながらも、自分に投資してくれた家族や友人、顧客といったコミュニティへのプラスのインパクトを高め、その円周を広げていくこと。そして、自分に近しい人々の「プラスの状態」を円錐状に高くしていくこと。この両方が実現できていれば、極端な例えになりますが、仮に「3秒後に死ぬ」と言われても、後悔の念が比較的薄い状態で終わりを迎えられるのではないかという考えになりました。人生100年時代と考えた時、中間地点である50歳でどうありたいかを思い描き、そこからバックキャスティングして、キャリアプランを考えてきました。